ジャンク・オペラ『ショックヘッド・ピーター ?よいこのえほん?』 東京芸術劇場
シアターイースト
- 作:ジュリアン・クラウチ/フィリム・マクダーモット/タイガー・リリーズ(音楽)
- ハンガリー語版翻案:パルティ・ナジュ・ラヨシュ
- ハンガリー語版演出:アシェル・タマーシュ
- 劇場:池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
- 上演時間:90分
- 評価:☆☆☆☆
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ハンガリーの劇団オルケーニによる『ショックヘッド・ピーター』の公演については、劇評サイト、ワンダーランドの劇評講座に参加し、そこで書いた劇評がワンダーランドサイトに掲載されている。タイトルは「嗜虐の後ろめたさと快感」
http://www.wonderlands.jp/seminar2012/mt01/6/
東京芸術劇場リニューアルオープン関連のツイートを読んでいると、ハンガリーの劇団による子供向き音楽劇、『ショックヘッド・ピーター:よいこのえほん』を無性に観に行きたくなった。「わるいこ」がたくさん出てくるブラック・ユーモアの作品らしい。『シザーハンズ』を思わせるちらしの写真の雰囲気はちょっとおどろおどろしく、怪しい。小一の息子を連れて見に行きたいと思った。前売りは完売で、開演1時間前から売り出される当日券を求め、開演90分ぐらい前から並んだ。順番は6番目だったが私のところで当日券は売り切れ。しかしキャンセル待ちで入場することができた。
『ショックヘッド・ピーター』の上演の前には、これまで何度か来日公演があって話題になったカナダの演劇団体コープスCorpusによる『ひつじ』Les moutonsの上演が地下一階の小劇場前の広場にあった。広場には柵で囲まれた5メートル四方ほどの牧場が設置されてきた。14時15分に男の羊飼いと4頭のひつじが地上からやってきた。羊飼いに追い立てられ柵のなかへひつじは入っていく。しかし雄ひつじ一頭だけは柵にはいらず、客のあいだをうろうろしていた。『ひつじ』のショーは40分ほど。俳優たちが着ぐるみで演じるひつじたちのたたずまいは実にひつじっぽくリアルではあるけれど、おそらく現実のひつじどうように無愛想で不気味である。小さい子供はたいてい怖がる。小一のうちの息子も同様。近くにやってきても決して手を出そうとはしない。ひつじは毛を刈られたり、客の手からレタスを食べたり、小便をしたり、乳を搾られたり、ひつじがやりそうなことをひととおり見せてくれる。交尾の様子までリアルに再現しているのが素晴らしい。適度な客いじりを交えつつ、ひつじの生態を眺める40分、不気味でおかしくて飽きない。最後は狼の乱入という約束事で幕を閉じた。
ジャンク・オペラ『ショックヘッド・ピーター よいこのえほん』は上演時間90分。間に10分の休憩が入る。唖然とするしかないポップでキッチュな悪趣味演劇。作品の雰囲気は『ロッキーホラーショー』を連想させるところがある。
ロボズ博士といういかにもあやしい博士を狂言回しに、とある夫婦が生んだ子供たちの様子が描き出される。このパパとママもエキセントリックな狂人なのだけれど、子供たちがことごとくこの夫婦の思いからは遠い「わるいこ」ばかり。このわるい子供たちはことごとく悲惨な死を遂げる。子供が死ぬたびに夫婦はまた子供を作る。爪も切らない、髪ももじゃもじゃのペーターはパパに鼻をもぎ取られ、ママに額をもぎとられ、最後は二人に手足をもぎ取られて死んでしまう。拒食症でやせ細って死んでしまう女の子もいれば、動物や人をむちでたたいて喜ぶ男の子は犬にかみ殺される、マッチ遊びが好きで結局は火事で焼け死んでしまう女の子、ゆびしゃぶりがやめられなくてハサミを持った仕立屋に指をちょん切られて出血多量で死ぬ女の子などなど。ビジュアルのポップさとのりの軽やかさ、歌の陽気さと子供惨殺の悪趣味の対比が可笑しい。ひどすぎて、笑った。小一の息子はちょっと恐かったみたいだ。こういうセンスの親子劇は日本にはあまりないように思う。悪趣味だが実に洒落ている。フランスのグラン・ギニョルというのはこんな感じだったのだろうか。
リアル悪童で落ち着きのないうちの息子もこの芝居は集中して見ていた。
同じ団地に住み、子供が息子と同じ学童に通っている母子も偶然、見に来ていた。懸賞かなんかでチケットが当たったのだという。そのお母さんも無茶苦茶喜んでいた。グロテスクで悪趣味だけれど、ユーモラスで爽快なのだ。生演奏の音楽もとてもいい。
9月、10月の池袋芸劇付近では、週末に大道芸もやっている。男女二人のアクロバット・コメディ、Gちょこマーブル、パントマイムのちゅらさん、そしてマリンバ二重奏によるコラボ・ショーが17時からあったのでそれを見てから帰った。時間は1時間。それぞれの持ちネタを構成して、女ひとりと男二人の三角関係の情景をショーにしたものだったが、脚本が今一つ。即席でつくったのだろうが、物語風の枠組みを使った意味が乏しいように思った。Gちょこは芸人の雰囲気は好きなのだけれども、単独でやる場合も脚本がいまいちだなと思う。提示した世界のイメージは悪くないと思うのだけれど。選曲もイマイチ。パントマイム系の人はしっかりとした構成を組み立てた作品を大道芸でも見せてくれる人は何人かいるが、アクロバット、ジャグリング系の芸人も技芸だけでなく、緩やかな物語的な枠組みを利用して曲芸をいかに効果的に見せていくか工夫することで一歩抜け出ることができるように思う。