閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

武蔵大学演劇研究部『僕を殺しても世界は死なない』

武蔵大学演劇研究部冬公演 僕を殺しても世界は死なない

  • 作・演出:小室真穂
  • 演出助手:齋藤あかね 前川宏樹
  • 舞台監督:千坂茜
  • 舞台監督補佐:石川かずみ
  • 制作:穐元修平 原あかり
  • 照明:髙瀨勇佑
  • 音響:竹内浩太郎 原あかり
  • 衣装:出頭かれん 石川かずみ
  • 舞台美術:今江咲子 野口友也 藤倉佳樹 山上明日実
  • 小道具:齋藤あかね 伊藤愛結
  • 宣伝美術:伊藤愛結 茂庭光奈
  • 出演:早井麻琴、広野健至、古澤一恭、中沢聖裕、木所真帆
  • 評価:☆☆☆

 身近にいる才能あふれる人物に嫉妬する物語。このタイプの物語といえば、まず思い浮かぶのはモーツァルトサリエリの視点から描いた『アマデウス』だ。武蔵大学演劇研究部のこの作品では画才に恵まれた弟と凡庸な兄が登場人物となっている。残念ながら画才に恵まれているはずの弟の天才ぶりが説得力に乏しい。天才というのがどういう存在かということに対するイメージが貧弱であるように思った。

 肥大した自意識と現実のあいだに折り合いをうまくつけることができない焦り、いらだちが表現された典型的な思春期演劇。自身のもどかしさやもがきぶりとしっかり向き合った作品であることには好感を持った。前半、弟が兄を殺したことを苦しんでいる内容だったのだが、中間あたりでそれが兄は生きていて、弟が死んでいたという具合に、関係性を一気に反転させてしまう仕掛けは、意外性があってよかった。詩的な美しさを持つ印象的な台詞もあった。全体としては、天才の弟を嫉妬していた兄が作り出した妄想ということになり、前半部はある種の劇中劇ということになる。観客を戸惑わせるこの劇構造は面白い。暗転が多すぎるのは気になったが。

 舞台美術はいい。地下にあるアトリエといった趣きだが、抽象的で無機的な空間でもある。絵の具の汚れや散らかり具合が、ちょうどよい感じ。

 「伯爵」役の男の子が、芝居はそんなにうまくなかったけれど、ハンサムだった。役者の演技については、中途半端なリアリズム演劇であり、象徴劇的雰囲気を持つ劇構造と美術のなかで、このスタイルの演技がうまく機能していなかった。この脚本と世界で、あの写実的な演技は合わない。おそらく演劇における演技というはこういうものだろうという思い込みが演出家と俳優にあって、こうした演技以外は思い浮かばなかったのだろう。