閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

走れメルス:少女の唇からはダイナマイト!

企画・制作:野田地図 NODA・MAP
作・演出:野田秀樹
美術:加藤ちか
照明:小川幾雄
衣裳:ひびのこづえ
キャスト:深津絵里中村勘太郎小西真奈美河原雅彦古田新太
場所:渋谷 Bunkamuraシアターコクーン
評価:☆☆☆

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野田が20歳のときに夢の遊眠社で初演した戯曲.その後,何度か改訂版が上演されていて,初期の野田の代表作とみなされている作品.野田の舞台は実は今回が初見.僕が大学に入学した当時,夢の遊眠社は既にチケットを入手するのが難しい劇団であったが,そのpopularityゆえにあえて退けていたのだ.「俺はあんなものを喜ぶほどミーハーじゃないぞ」と見たこともないくせに思っていたわけである.本当のミーハーは実は僕のほうで,だいぶたってから野田の舞台が演劇評論家などの「玄人」筋の評価も高いことがわかってからは,気になってしようがなかったのだが,なんとなく足は遠のいたままだった.
今回は念願の野田演劇初体験となった.
野田の舞台は見たことがなかったが,野田の演劇についての言説はこれまでいろんなところで目にしてきた.そうした言説によって僕の頭に中にでき上がっていたイメージそのままの舞台だった.
言葉遊びをふんだんにとりいれたナンセンスすれすれの饒舌,役者の舞台上でのスピード感あふれる激しい動き,錯綜するプロットによって重なりある複雑なイメージ.80年代の日本の小劇場的な舞台に圧倒的ともいえる影響を与えた野田の演劇世界の原点が『走れメルス』にはあると言う.しかし2005年になってようやく野田の舞台を見た僕には野田の芝居はある「古典」的な演劇世界の残像に思えた.
正直舞台上の役者がことごとくきんきんした声でエキセントリックな演技に終始するのにはちょっとうんざりした部分もある.再演を重ねているのにも関わらず,一見即興性に富むように見える演出も実は雑なだけのように思えた.
しかし何よりも耐えがたかったのは観客の「緩さ」である.既に歴史も長く,ファンも多い劇団だから仕方ないことだとは思うが,ギャグに対するあまりにも安易な反応ぶりには白けた.定番的なギャグに対するこうした閉鎖的な仲間意識に基づく反応もまた生の舞台のよさかもしれないのだが,大して面白くもないギャグにいちいち反応する律義さで,客席にはいやーな香りが漂っている.2階後ろ7000円という温度の低そうな席に座っていたのだが,なぜか両隣が「忠実な信者」で,特に右側の大男とどブスのカップルの過剰な反応にはムカムカとした.「おい,お前,ほんとにそんなに面白いか?」とからんでみたい衝動にかられる.久しぶりに本気で殴り倒したくなった人物.「なんでこんなことがいちいち腹がたつのだろう」と思いつつ,観劇中両隣の反応がうっとうしくてしかたない.演劇,特に小劇場系統の人気劇団の舞台は,気持ちの悪い「信者」が多いのがネックだ.新劇系の観客がそれにくらべてなんとあっさりとしていていさぎよいことか(この前の松本修演出の『城』はいくらなんでもあっさりしすぎの感じがしたが).
野田の舞台はあと何回かは見てみたい.できれば「普通」の観客の間の席で.