閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ロンサム・ウエスト Lonesome West

演劇集団 円 公演
http://www.en21.co.jp/lonesomewest.html

  • 作:マーティン・マクドナー Martin McDonald
  • 訳:芦沢みどり
  • 演出:森新太郎
  • 美術:伊藤雅子
  • 照明:佐々木真喜子
  • 出演:石住昭彦、吉見一豊、上杉陽一、冠野智美
  • 上演時間:2時間30分(休憩10分含む)
  • 劇場:田原町 ステージ円
  • 評価:☆☆☆☆★
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演出の森新太郎は1976年生まれの若い演出家。作品の作者のマーティン・マクドナーも1970年生まれのまだ30代の劇作家である。作品は1998年に初演される。
タイトルの意味は「孤立した西部地方」で、アイルランド西部、ゴールウェイの北西にある寒村、リーナンが作品の舞台となっている。パンフレットの解説によるとマクドナーは生まれも育ちもロンドンだが、両親がアイルランド出身で、祖父母はアイルランドの西部にまだ在住しているとのこと。『ロンサム・ウエスト』は作者の両親の故郷であるアイルランド西部コネマラ地方の寒村、リーナンを舞台とする三部作の最後の作品。
異常なほど仲が悪いにもかかわらず同居している二人兄弟の諍いを延々と描く作品だった。先日見た映画『ゆれる』の兄弟のような内にこもった屈折した葛藤ではなく,このロンサムの兄弟の対立はあからさまで実に幼稚,そしてその対立の有様は陰険かつ暴力的でどんどんエスカレートしていく.物語はこの対立のありようのバリエーションを提示するだけなのだが,この殺伐とした諍いの不毛さの極端さが黒く破壊的なユーモアの形で提示される.だんだんとエスカレートしていく表現はほとんどナンセンスなスラプスティック・ギャグのレベルに達する.またこの兄弟の諍いにはアイルランド西部の田舎町の荒廃した風俗が巧妙に投影されている.彼ら二人はアイルランドの田舎の「後進性」,民度の低さの象徴的存在であり,民族・地域差別の笑いもこの戯曲の重要な要素となっている.伏線を巧みに使った戯曲は非常にすぐれたもの.
兄役を演じた石住昭彦の定型的な表現をうまく使った演技が光る.
吉見一豊は『ファウスト』ではメフィストレスを演じた役者だが,この人の演技の表現のくどさは好みが分かれるところだろう.僕はあまり好きではない.
テンションを落とさず,テンポよくまとめた演出は堅実かつ秀逸,登場人物の対立軸もしっかりと強調され,わかりやすい舞台作りがされていた.