閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

終わりよければすべてよし All's well that ends well

http://homepage2.nifty.com/aun-company/index.htm

  • 原作:シェイクスピア
  • 翻訳:小田島雄志
  • 演出:吉田鋼太郎
  • 照明:稲垣良治
  • 出演:吉田鋼太郎,千賀由紀子,横田栄司,長谷川祐之
  • 上演時間:二時間半
  • 劇場:恵比寿 エコー劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
                                                                                • -

AUNの公演は今回が初めて.エコー劇場も初めてだった.エコー劇場は客席200名ほどの劇場.今日はほぼ満席.客層は老若男女そろっているがこの手の公演にしては比較的若い観客の姿が多いように思った.
『終わりよければすべてよし』はシェイクスピア37作品の中でも滅多に上演されない作品である.珍しい作品の上演に立ち会えることを楽しみにしていた.劇団主宰者である吉田鋼太郎はかつてシェイクスピア・シアターに在籍していた.彼の存在感は別格として,総じて役者のレベルが高い.嘘八百を並び立てる饒舌と道化じみた振る舞いで舞台をかき回す難しい役柄を演じた横田栄司(文学座所属)も抜群にうまい.シェイクスピア劇の道化役は下手な役者がやると目も当てられない気恥ずかしいものになってしまうが,うまく演じれば観客にもっとも愛される劇の中軸となる登場人物となる.ヒロインの千賀由紀子は顔立ちがちょっと地味で華やかさに欠けるところが物足りない.伯爵に誘惑されるフローレンスの貴族娘を演じた根岸つかさは,川島直美の若い頃をちょっと丸めた感じの顔立ちがとても可愛らしい.
大変奇妙なお話である.ハンサムな伯爵バートラムに身分違いの恋心を抱く孤児の女性ヘレナが,様々な権謀術数を使って逃げる伯爵を執念深く追いかけて,最後の最後には伯爵をものにしてしまうお話.ヘレナは玉の輿を目指して積極的に行動する女性ではあるが,その積極性にもかかわらず彼女は貞淑で保守的な女性である.というのも彼女は伯爵への愛が実に一途なのだ.一方伯爵は身分違いを理由にヘレナを全く認めようとしないだけでなく,とんでもない無責任なスケコマシ.この伯爵は,ヘレナがあれほどまで愛し,執着するのかが全く理解できないような何の誠意もない男なのだ.この主筋に,伯爵の従僕であるペーローレスを中心とする道化芝居,笑劇がからむ.
女性の「処女性」をめぐる議論やギャグがあまりにもあからさまなのに少々とまどってしまう.最後は伯爵とヘレナは結ばれるのだが,ヘレナの術中に落ちた伯爵が本当にヘレナを愛するようになったとはとうてい思えない.本当に「終わりよければすべてよし」なんだろうか?と誰もが首をかしげるようなエンディング.それでも今日の芝居の演出では,伯爵を手に入れたヘレナの最後の表情は幸福感に満ちた穏やかなものになっていた.
AUNの台詞朗唱は新劇的であり,大声で朗々と響く.役者によっては一本調子になってしまうところもあるが,台詞はとても聞き取りやすくなっている.特にギャグを強調した演出ではないが,役者の動きがてきぱきとしていて,展開のリズムも早い.またニューエイジミュージック風のピアノ音楽やジャズ(マイルス・デイビスの70年代?)などの選曲もしゃれている.長いすが時折舞台上に置かれるぐらいで舞台装置はほとんどつかわれていないが,照明や音楽の効果をうまく使って,全体的にはきわめて洗練された舞台空間が作り出されている.どこか「大人」風のシックで落ち着いた舞台だった.
奇抜なことはせず,堅実にシェイクスピア・テクストの魅力を伝える上質の公演だったと思う.大いに満足する.