閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜

シス・カンパニー公演
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2009/05/post_154.html

清水邦夫の『楽屋』はしばしば上演される戯曲だけれど、僕が舞台で見たのはこれが初めてだった。女優4人による芝居。チェーホフの『かもめ』上演中の劇場の楽屋が舞台である。上演時間80分ほど。
この芝居は偽りの世界のなかで現実を生き続けることが宿命の女優が、死後落ちることになる地獄の情景であるように僕には思えた。この地獄で舞台上での華やかな喝采を夢見つつ、ほとんどありえない「出番」を女優たちは未来永劫に待ち続ける。役者ではない観客も、『楽屋』で女優がもがくありさまに、自分自身の報われない人生の暗喩を読み取ることが可能だろう。

4人の役者はいずれも達者で、演技のつながりが実になめらかでリズムがいい。蒼井優も一昨年の『オセロー』でデズデモーナを演じたときよりも、はるかに自在に役を作り上げていた。最もあのデズデモーナのぎごちなさはそれはそれでよいものであったのだけれど。

劇中に挿入されたチェーホフの戯曲からの引用がとても美しい。蒼井優チェーホフもいつか見てみたい。

堅実にきっちり作られた安定感のある芝居だったし、戯曲も興味深いものではあったけれど、僕の今日の波長とはいまひとつ合わず。あまり心に響くところのない舞台だった。