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母なる証明(2009) MOTHER
- 上映時間:129分
- 製作国:韓国
- 初公開年月:2009/10/31
- 監督:ポン・ジュノ
- 原案:ポン・ジュノ
- 脚本:パク・ウンギョ、ポン・ジュノ
- 撮影:ホン・クンピョ
- 音楽:イ・ビョンウ
- 出演:キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン
- 映画館:東武練馬 ワーナーマイカル板橋
- 評価:☆☆☆☆★
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近所のシネコンでポン・ジュノの新作、『母なる証明』を上映していることに気づき、見に行った。東京の場末のシネコンでポン・ジュノ作品がかかるとはちょっと意外。客は案外多い。客層は近所からやってきたおばさん風のひとが多い。出演している俳優、ウォンビンが韓流スターとして人気があるらしい。この映画での彼の役柄は知能が低い青年。テレビドラマ的な類型からは脱した、ニュアンスに富んだ表現で知的障碍の青年を演じていた。
映画の原題はシンプルに『mother』のみ。「ザ・オバサン」といった感じの風貌の女優キム・ヘジャが、自己の分身である我が子をほとんど本能的に守ろうとするすがたに焦点があてられる。息子は知的障碍だが、気は優しくて、愛らしい風貌を持っている。この息子を母親は溺愛している。この息子に近所の女子高生殺害の嫌疑がかけられ、彼は拘留されてしまう。息子の無実を信じる母は、無実を証明するために死にものぐるいで奔走する。
オープニングの場面にひきこまれる。ススキ野原を背景におばさんがゆらゆらと身体を動かし、たよりなげに踊っている。その顔は悲しげでもあり、苦悶しているようでもあるが、かすかに笑っているようでもある。このオープニングの場面は作品全体の詩的なレジュメとなっていることが見終わったあとわかる。
作品の基調は推理サスペンス劇であるが、ポン・ジュノらしいひねくれかた、毒がある。前半の展開はたるい。母性愛のあり方をストレートに描いているように思える。役者の存在感、演技力は素晴らしいが、ありふれたテーマ、単調な展開だなと思っていると、がつんとやられる。ポン・ジュノ作品だけに普通の映画にはならないはずだ、何か仕掛けがあるはずだと用心しながら見てはいたのだけれど。
前半に鏤められた伏線の数々が明らかになっていく後半の展開の緊迫感が素晴らしい。ぐっと映画のなかに引き込まれる。母性愛に基づく母親の利他的行為の奥に、どす黒いエゴイズムが現れ出る。強度はきわめて強かったけれど、安定感のあった母親のステレオタイプが、いっきにぐらぐらと揺れ始める。肉親の愛の成立を支えているのはもしかすると黒い打算かもしれない。苦い後味がずっしりと残る映画だった。
かなり強烈なサディスティックな映画だと僕は思った。凡庸な主題をあえてあつかいつつも、その表現は破壊的で辛辣な風刺が含まれている。凡庸を徹底的につきつめた果てに、非凡で独創が生まれる。まき散らされた思いがけない毒の強さにぎょっとする。