閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

小説

天窓のある家

篠田節子(新潮文庫,2006年) 評価:☆☆☆★ - 九編の小説を収録する短編集.中年世代の不安,特に家族の問題を女性の視点から描いた小説が多いが,いかにも篠田節子らしいSF的な発想の作品も含まれる.僕が読んでいる現役の娯楽小説の書き手の中では,篠田節…

仲蔵狂乱

松井今朝子(講談社文庫,2001年) 評価:☆☆☆☆ - 江戸時代田沼意次の時代,歌舞伎役者としては最下層の地位(稲荷町)から,役者の頂点である名題まで成り上がった実在の歌舞伎役者,中村仲蔵の伝記小説.幼少期から死までが時系列に沿って語られる.当時の…

地唄・三婆

有吉佐和子(講談社文芸文庫、2002年) 評価:☆☆☆☆ - なんとなく有吉佐和子。「地唄」(1956)「美っつい庵主さん」(1958)「江口の里」(1959)「三婆」(1961)「孟姜女考」(1961)の著者の比較的初期に書かれた五編の短編を収める。「地唄」は伝統芸能…

料理人

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)作者: ハリー・クレッシング,一ノ瀬直二出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1972/02メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 93回この商品を含むブログ (45件) を見る ハリー・クレッシング著/一ノ瀬直二訳(ハヤカワ文庫、1972年) …

空中庭園

角田光代(文春文庫、2005年) 評価:☆☆☆☆ - 先日見たDVD版が面白かったので、原作にも手を伸ばす。映画版では主人公を妻に設定し、彼女の屈折が家族の欺の核となっていた。彼女とその母親の葛藤がドラマの中心となっていたのだが、原作は六章構成で各章で語…

愛がなんだ

角田光代(角川文庫、2006年) 評価:☆☆☆★ - こちらは『空中庭園』より素材が軽やかで娯楽性が高い。もてない片思い女の一途ではあるけれど、無様で間抜けな恋の姿を描く。そして彼女の献身的愛は、おそらくその献身性ゆえに報われることはないのだ。『だめ…

クワイエット ルームにようこそ

松尾スズキ(文藝春秋、2005年) 評価:☆☆☆☆ - 138ページの中編。芥川賞候補作。 精神病院もの。主人公の女性の激動的な人生のディテイルの作り方がうまい。導入の描写は極めてグロテスクかつ独創的。 精神病院を舞台とする小説、狂人の生態を描いている小説…

どうで死ぬ身の一踊り

西村賢太(講談社、2006年) 評価:☆☆☆☆★ - 「墓前生活」「どうで死ぬ身の一踊り」「一夜」の三編を収録。石川県出身の破滅型の作家、藤沢清造(1889―1932)に心酔する著者が、藤沢清造の全集刊行準備作業と、その傍らの刹那的日常を露悪的に描き出す私小説…

透明人間の告白

作:H.F. Saint 翻訳:高見浩 出版年:1992年(原作は1987年) 評価:☆☆☆★ - SFを含む海外の作家の娯楽小説はごくまれにしか読まない。この本はどこかで紹介されていたのを目にして、Amazonで検索したら古本が1円で売っていたのだ。実際に支払う金額は1円+送…

二人阿国

皆川博子(新潮社,1988年) 評価:☆☆☆☆★ - 昨年秋に有吉佐和子の『阿国』を大変面白く読み,このお正月には有吉原作をもとにした津上忠脚色の前進座の舞台を見た.三月に新橋演舞場で1990年に初演されて以来再演を重ねている栗山民也演出,木の実なな主演の…

なんとなく,リベラル

小谷野敦「なんとなく,リベラル」『文學界』第61巻-2号(2007年2月号),p.186-229. 評価:☆☆☆☆★ - 昨年の『文學界』八月号に発表された小説「悲望」http://d.hatena.ne.jp/camin/20061013/1160727707が私小説的色彩が濃かったのに対し,「なんとなく,リ…

黄泉がえり

梶尾真治(新潮文庫,2002年) 評価:☆☆☆☆ - 『クロノス・ジョウンターの伝説』というタイムマシンものの恋愛小説の傑作を読んでいたにもかかわらず,語呂合わせの題名(作品中の記述では「蘇り」の語源だということだが)と青少年向きSF風の題材に,何と…

悲望

小谷野敦,「悲望」,『文学界』,第60巻第8号(2006年8月号),p.16-74. 評価:☆☆☆☆ - 「もてない男」小谷野敦による私小説.カナダに留学してまで片思いの女性を追い続ける主人公の男性は明らかに著者の分身.彼の一方的な恋愛の犠牲となった女性のモデル…

半落ち

横山秀夫(講談社文庫,2005年) 評価:☆☆☆★ - 最後に明らかになる「半落ち」の理由にひねりがなく,驚きがない.その動機があまりにまっとうすぎて「やられた」って感覚がないのだ. 感動的なラストであるかもしれないが意外性に乏しく,推理小説としての醍…

手鎖心中

井上ひさし(文春文庫、1975年) ISBN:4167111039 評価:☆☆☆☆★ - 1972年の直木賞受賞作『手鎖心中』と受賞後第一作『江戸の夕立ち』の二編が所収されている。 どちらもその破格の洒落っ気ゆえに最終的には身を滅ぼすことになる道楽町人を描いた小説。『手鎖…

花石物語

井上ひさし(文春文庫,1983年) 評価:☆☆☆☆ - 自伝的物語.ひさしが東京生活でのカルチャーショックゆえに大学を休学し,母が働く釜石(花石)に何年か戻っていた時代を小説化. 鉄工所景気で活気ある花石の町で,地に足のついた生活を送る住民たちとの交流…

オリガ・モリソヴナの反語法

米原万里(集英社文庫,2005年) 評価:☆☆☆☆☆ - 先々月,ガンで死んだロシア語通訳者米原万里の長編小説.単行本は2002年に出版され,ドゥ・マゴ賞を受賞している.著者の死にあたり,文庫本が再刷されたようで立ち寄った書店で平積みされていた.1960年にプ…