篠田節子(講談社文庫,2001年)
評価:☆☆☆☆
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篠田節子の作品の中で,この作品を最良のものとする読者が多い.
確かに重厚かつ奇想天外極まる物語.
美術展の企画者の空虚では在るが華麗な日常が,小説の後半ではヒマラヤの架空の小国での過酷で非現実的な革命の悪夢に転換したまま,その悪夢は覚めることなくずるずると小説の世界はその深みに入り込んでいく.カンボジアのポルポト政権下の日常や中国の文化大革命をモデルにしているのだろうが,革命の悪夢の描写はひたすら残酷で容赦ないレアリスムで描写されている.
このコントラストの激しさ,日常と非日常の対立の唐突さ.不条理極まる主人公の運命.
構成としては展開が強引すぎるため,アンバランスな印象があるが,力強くノミを刻み込むような堅実な文章力と描写の迫真性で読ませる.緻密な構成を組み立ててから物語を構築していくタイプではなく,物語の中に没入して勢いで書くタイプなのかもしれない.
篠田節子の作品は傑作である以前に,異色作であるという印象がはるかに強いものが多いが,この『弥勒』も怪物じみた魅力に満ちている.