閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

怒りをこめてふり返れ

  • 劇団:地人会
  • 原作:ジョン・オズボーン Look back in anger
  • 訳:木村光一
  • 演出:木村光一
  • 装置:島次郎
  • 照明:沢田祐二
  • 衣裳:渡辺園子
  • 出演:高橋和也(ジミイ);神野三鈴(アリソン);今井朋彦(クリフ);岡寛恵(ヘレナ);有川博(アリソンの父)
  • 劇場:紀伊国屋ホール
  • 評価:☆☆
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昨年秋,Bobignyでの『三文オペラ』以来一年ぶりの舞台観賞.残念なことに演劇的感興を味わい楽しむことのできる舞台ではなかった.体調も悪かった.ガス地獄.
上演は全五幕で,二時間半.膨大なセリフ量に圧倒される.ひたすら辛辣に社会や周囲の人間に罵言を浴びせる主人公とブルジョワ出身で主人公の罵言をひたすら受動的に受け入れる妻アリソン,その妻に恋愛感情を持つ主人公の友人クリフ.この奇妙で閉鎖的な三角関係は,絶望的な陰鬱さを抱えつつも,それなりの安定した平和な関係を確立できていた.そこにアリソンの友人のヘレナが加わることで,この三画関係は脆くも一気に崩壊に向う.ラストはジミイとアリソンの和解で幕を閉じるが,その前途に明るい希望は感じられない.
ひたすら社会や周囲の人間に呪詛を投げかけるジミイの姿は痛々しい.彼の衝動的な苛立ちは理解できないでもない.しかしひたすら周囲の人間に寄り掛かる彼の姿勢はいかにも幼稚で,甘えたものであり,とうてい私は共感できるものではなかった.しかもそうした無残に傷つく己を見せつけることで,アリソンとヘレナの二人の女性の愛を手に入れているのが気に入らない.
舞台のアイロン台はト書きにあるのだろう.前にアイルランドでこの芝居を観たおりにも舞台中央にアイロン台が置かれていたことを思い出した.
演出は単調.膨大なセリフに俳優・演出家の解釈がついていっていない.朗読の仕方,表情,しぐさ等すべてがあまりにも新劇的類型に陥っている感じがした.特にアリソン役の神野三鈴の大根ぶりは失笑もの.もともと青臭い本ではあるが,それをさらに今ではパロディにしかならないような古くさい演出でなぞっている.とにかくセリフの量が破格に多いこの芝居は,しっかりと練られた演出プランと上手い役者がやらなければ,長く単調に感じられて仕方ない.実際ところどころで睡魔に襲われた.
客の入りは八割ほど.平日昼間にもかかわらずよく入っている.高齢者の観客が目立つ.リタイアするような年齢になって,こうした芝居を娯楽として見に来るなんて,粋だなぁと思う.