閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ユキの伝言

下田治美(角川文庫,2001年)
ユキの伝言 (角川文庫)
評価:☆☆☆☆

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三編の短編を収める.そのうち最初の表題作が秀逸.母親の愛情を虚しく求める幼児の描写がせつない.二編目の『十八歳の誓い』も佳篇.男性の自己中心的な性のありかたと,女性が子供を求める心理がリアルに意地悪な視点から描かれている.いずれも下田治美の高い描写力や構成力を示す好編.しかしこの作家は寡作すぎる.長編は『愛を乞う人』一編のみ.彼女のエッセイやノンフィクションもあわせてよむと,この作家はフィクションを書く能力がありながら,フィクションを書く事に飽きてしまったのだろうなぁ,というふうなことを感じさせる.僕にとっては下田治美はフィクションのほうがノンフィクションよりはるかに魅力的な作家なのだが.