閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

東京物語

奥田英朗(集英社文庫,2004年)
東京物語 (集英社文庫)
評価:☆☆☆

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暇つぶし用に何となく買う.著者についての事前知識なし.コピーライターなどをやっていた人らしい.直木賞作家.大学浪人時代に名古屋から上京し,その後大学を中退して広告代理店に勤務し,さらに独立してフリーのプランナー・コピーライターとして過ごした1980年代の五つの日付にまつわる物語をあえて年代順に並べていない.会社員一年目の話から始まり,第二話で浪人で上京したときの話に遡り,その後,時代をふたたび下っていく.簡潔な文はリズムがあって読みやすい.流石元コピーライターという感じ.
80年代の広告業界というバブルの渦中の雰囲気がよくわかる.はじめての上京時の心細さを描いた第二話のみに共感を覚える.それ以外は,僕自身も同じ時代を意識的に生きていたのだが,あまりにも自分の現実とは離れた世界のお話で楽しめず.作者の嫌みな自慢の臭みがかすかに漂う.70年代にこの作品と似たような環境で過ごした,これまた名古屋出身の清水義範の自伝的小説群における主人公の素朴さにより大きな共感を覚える.