- ク・ナウカ シアターカンパニー
- 作:ピランデルロ
- 訳:田之倉稔
- 演出:宮城聰
- 美術・演出:深沢襟
- 照明:大迫浩二
- 出演:大高浩一、諏訪智美、奥島敦子、黒須幸絵、本城典子(以上mover)、藤本康宏、本多麻紀、宮城聰、高橋昭安、末廣昌三(以上speaker)
- 劇場:下北沢 スズナリ
- 評価:☆☆☆☆★
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SpeakerとMoverに分かれて演じるク・ナウカ独特の様式性は高いが、同時に退屈さも感じさせるスタイルで、のろのろとしたテンポで芝居は幕をあける。Moverは能面のように無表情のまませりふに合わせて動くが、せりふが異様に聞き取りにくく感じられる。風邪気味で体調は最悪だった。「うう、最後まで集中力を保てるかなぁ」と不安を感じ始めたときにあるハプニングが起こり、たるいテンポが断ち切られる。緊張感あふれる物語の転換。ク・ナウカの演劇論などもその中で明らかにされていく。
ハプニングの内容はこの公演が終わるまでは明らかにできない約束になっている。知的な仕掛けで臭みはあるものの、僕にとっては実にスリリングで刺激的なピランデルロの公演だった。
- 追記
ク・ナウカのスタイルで始まった『山の巨人たち』は、20分ほどたった時点で客席の騒ぎによって中断される。最初はおずおずとした小声のやりとりがだんだんエスカレートしていき、Speakerをしていた宮城が演技を中断して客席の騒ぎの収拾しようとするが、トラブルはなかなか収まらない。結局宮城はトラブルを起していた客をステージに上げてそれぞれの言い分を聞くことにする。舞台上でことの顛末を語り始める彼らは6人の白塗りの人物だった。この時点でようやくことのしだいが飲み込めてくる。そう、『作者を捜し求める6人の登場人物たち』に『山の巨人たち』の舞台はのっとられるのである。
この作品自体が演劇というジャンル自体に対する問いかけである複雑なメタ演劇なのだが、ク・ナウカ公演ではさらにク・ナウカ自体の演劇スタイル、宮城の演劇哲学への問いかけが舞台上で行われる。宮城は6人の乱入者にとまどいをみせつつも(そういう演技をしつつも)、こうした本質的な問いかけについて誠実に解答しようとする。
すでに古典となってしまい、役者がどのように演じるのかだけが焦点になってしまったピランデルロのこの代表作に、初演当時の衝撃力を喚起させるにはどうすればいいか考えた末で、今回のトリッキーな演出が出てきたとのこと。観客側の知的教養も問うという意味で「いやらしい」舞台ではあるが、こうした演出を通じこれまで築いてきたク・ナウカのスタイル自体についても真摯な問いかけを迫ることになったという点で非常にスリリングで刺激的な公演だった。