閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

阿修羅城の瞳

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相変わらずがら空きのユナイテッド・シネマとしまえんのレイトショーで観る.観客は10人ほど.せっかくできた近所にある快適な映画館,つぶしたくないのだけどなぁ...

時代劇ファンタジー.もとは劇団☆新感線の舞台作品.半年前の僕だったらまず見に行かないジャンルの作品だが,ついこの間観た『髑髏城の七人 アオドクロ』の高い娯楽性の魅力に引き込まれ,しかも主演は「アオドクロ」と同じ市川染五郎,さらにこのところ可憐ではかない美しさに磨きがかかる宮沢りえ共演ということで,食指がのびる.
舞台劇から映画のリアリズムへの転換はうまく行っていなかった.劇団☆新感線の豪華絢爛な舞台を観ると,あのファンタジーを映像という自由度が大きい表現の中でさらにふくらませてみたいと考えるのは自然な発想だと思う.しかし今回映画化して明瞭になったことなのだが,劇団☆新感線の舞台の荒唐無稽さは実はきわめて演劇的な仕掛けを有効に利用したものなのだ.映画に観客が無意識のうちに期待するリアリズムの中で,あの演劇的ファンタジーを昇華させるのはかなりのセンスが必要である.脚本も大幅な変更がときに強いられるだろうし,衣装や舞台装置を含めた演出プランも映画的リアリズムを考慮した上で映像的様式化を目指さなくてはならないだろう.
おそらく舞台作品の味わいを生かす方向で演出を考えたために,この映画での表現は実にちぐはくで観客にとって居心地の悪いものになってしまった.美術の趣味の悪さは特筆に値する.
おそらく舞台では映えていたであろう染五郎の演技も,映画の世界ではいかにも大味なわざとらしさが鼻につく.人間と言うよりは芝居を演じる機械仕掛けの精巧な人形のように思える,宮沢りえの尋常ならざる美しさは前半は惹きつけられたけれども,物の怪に変化して以来は観るのがつらい.最後の殺陣のおそまつさがクライマックスをしらけたものにする.狂言回しとしての鶴屋南北のキャラクターも掘り下げが浅い.
やたらとあくの強い役者がそろったけれども,強い個性がばらばらで散漫な上,稚拙な美術表現・映像表現と単調な演出のせいで,マンガチックなものになっている.
相矛盾する恋愛心理のからみあいと高まりの表現も不十分.お子様向きの人形劇のような薄っぺらい作品になってしまった.
残念.