閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ロスト・イン・トランスレーション

http://www.lit-movie.com/

  • 評価:☆☆☆☆★
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人生の下り坂を意識し始めた中年男性と自分の凡庸さに気づくことで失望の沼地に足を取られている若い女性が,異国の地で出会う.異国での孤独感は己の宙ぶらりんの状態を増幅させる装置だ.
己の凡庸さに気づいてしまったときの失望感や結婚したときや子供が生まれたときの後戻りできない,「恐怖」に似た感覚.異国での滞在の非日常感が,普段は意識しない自分の人生の空虚さについて考える機会をもたらすという設定はありふれているがゆえに,説得力がある.このありがちな設定での展開の軽妙さと映像感覚そして音楽の使い方にセンスを感じる.ビル・マーレイスカーレット・ヨハンソンは新宿および日本の風景に異化作用をもたらし,映像の中の風景は見慣れた風景であるのにもかかわらず全く異なる質感を有している.日本の風俗についての視点はかなり意地悪だが,これくらいの意地悪さはお互い様という感じ.西洋人が日本で感じる違和感をうまくギャグに昇華できていたと思う.
ビル・マーレイの抑制された表現のしぶさとヨハンソンのだらしなさと愛らしさ,小生意気な雰囲気に引き込まれる.この二人が惹かれつつも最後まで肉体関係を結ばないというじりじりした緊張感も好み.このやせ我慢があるこそ,ロマンチックな思いに浸ることができるのだから.