閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

キレイ:神様と待ち合わせした女

実質的に初めての「大人計画」の舞台鑑賞。エッセイや小説でのひねた味わいを楽しみ、映画俳優としてのやさぐれた雰囲気の存在感に好感を抱いてきた、松尾スズキの世界の真骨頂を味わえるかと期待していた。五年前に奥菜恵主演で大好評をはくしたミュージカルの再演。超人気公演でコクーンは立ち見も出る超満員だった。僕は先行でも一般販売でもチケットを入手できず、ネット上の掲示板の「譲」コーナーでチケットを入手。S席9000円のチケットだったが、一回最後列右奥の席だった。舞台全体は見渡せる席ではあるが、舞台までかなり遠い。これでS席9000円とはかなり阿漕な感じがする。
観客層は90%が若い女性。日本のスペクタクル公演ではおおむねどの公演でも女性観客のほうが多いのだが、大人計画の客層がこれほど偏っているとは少々意外な気もした。松尾のうさんくささは女性にも受けるのだ。
休憩15分を含む3時間半の公演。長い。主人公の女性、ケガレの過去と未来の姿が同一の舞台上ですれちがい邂逅するという演劇的仕掛けは印象的だったが、物語の構成は雑で冗長に感じられた。阿部サダヲをはじめとする異常に達者な役者の芸で場面場面をつなげている感じ。役者の芸でつなげるという点から言えば「歌舞伎」的スタイルであるともいえる。松尾がエッセイでよく書いている「テレビや一般の映画では許されていない」表現だが、大人計画の舞台では当たり前のもの、というのが、あのしつこく出てくる「性」への露骨な言及であるならば、かなり拍子抜け。
個々の役者の個人芸を楽しむことのできる舞台ではあるが、脚本の背景にある世界観はありきたりで厚みに乏しいように感じた。僕には残念ながら期待はずれの舞台だった。「大人計画」の本領は別の作品で発揮されているのだろうか? 『キレイ』の世界はあまりにも物足りない。近未来社会が舞台の雑然とした展開という共通点ゆえか、この一月に見た野田秀樹の『走れメルス』を連想する。見た後の印象や客の雰囲気もどことなくにているような気がする。
高岡早紀の美しさにはみとれる。あんなに綺麗なひとだったんだぁ、と。秋山菜津子、芸達者でかつ愛嬌抜群。