隆慶一郎(新潮社、1986年)
ISBN:4101174113
評価:☆☆☆☆★
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娯楽的な時代小説は山本周五郎を除きこれまであまり読んでいなかったが、とりわけ英雄的主人公が活躍する「剣豪小説」というジャンルには関心がなかった。この小説を読む気になったのはもちろん劇団☆新感線の舞台を見たからである。隆慶一郎はこのジャンルの大家だったらしいがこれまで未読。
劇団☆新感線の舞台も十分に楽しんだけれども、原作も秀逸。史実、伝説の材料をうまく生かして極めてドラマティックな物語を展開させている。短文を重ねていく達意の文章のリズムも心地よい。いかにも作り物の英雄ではあるが、あくまで清々しく誠実な主人公をはじめ、登場人物の造形も魅力的。エピソード豊富な充実した小説。遊郭吉原に対するロマンチックな幻想にはなじめない部分があるが、背景のディテイルの考証、説明付けが物語の展開の根本と結びつくお話の作り方も見事。
小説を読んでみると、中島かづきの舞台版脚本の作り方のうまさもよくわかった。豊富な材料をすっきりとまとめつつ、小説の世界観、空気はうまく舞台化されている。ただし高尾太夫の扱いは舞台版では、小説での役割を思うと、不当に小さいものになってしまったように思える。京野ことみはせっかくの良役を活用できていない。