閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

S高原から

青年団 第47回公演

  • 作・演出:平田オリザ
  • 美術:杉山至、突貫屋
  • 照明:岩城保
  • 宣伝写真:佐藤隆
  • 出演:奥田洋平、辻美奈子、井上三奈子、田原礼子、大竹直、志賀広太郎、岩崎裕司
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
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100名ほど収容可能なアゴラ劇場は超満員。今日はお腹の調子が悪く開演前にごろごろと不穏な音がして、開演後15分ほどは脂汗が出る。音楽もなく、登場人物が大声を出すこともない静かな芝居なので、音がなったらどうしようということばかり気にかかってしかたない。しかも狭い劇場は超満員で通路もふさがっている状態。いよいよ我慢できなくなったときに外に出るには舞台を横断するしかなさそうな感じ。幸い15分ほどで落ち着いたのだけど。
今まで見た青年団の芝居の中では一番好きな作品かもしれない。作品が執筆されたのは1991年のバブルの末期。その2,30年後の山中のサナトリウムを想定したと作者のノートにある。かつて不治の病として多くの青年の命を奪った結核療養所が、21世紀の日本の社会に残っていたらという仮定の世界。世間から隔絶したこの静謐な療養所で死に意識しつつ、不安のなかで過ごすのは裕福な階層の若者たちである。この療養所の若者と彼らを見舞う同世代の友人、恋人の接触を描く芝居。世捨て人めいた諧謔や皮肉、虚ろな快活さの向こう側に、死という不条理に直面することへのおびえが見え隠れする。結核のなくなった未来に、死と向き合わねばならぬ療養所の若者たちの屈折と絶望は、おそらくかつての結核患者より深い。劇中では堀辰雄の『風立ちぬ』の冒頭部がリフレインのように繰り返し話題になるが、この作品は戦前・戦後に多数書かれたサナトリウム文学の正統的な後裔である。設定の秀逸さ、療養所患者の不安感を間接的なかたちで浮き彫りにする脚本の完成度の高さ、演劇的仕掛けをそぎ落としことばだけの舞台で緊張感を持続させた丁寧な演出に感嘆する。

奥田洋平演じる画家の神経質でエキセントリックな風貌、井上三奈子のどこかいびつさを感じる美しさ(青年団の女優はなんとなく「奇形的」な雰囲気を持つ人が多いように思う)、療養所の異常な緊張をユーモアに変化する岩崎裕司のコミカルな演技が印象に残る。

ちらしの写真がいい。田舎の踏切の風景が青っぽい色合いで映し出されている。このちらしに惹かれて、見に行く気になったのだ。