閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

昆曲京劇公演@早稲田大学大隈講堂

  • 出演:天津京劇院・新潮劇院(張春詳主宰)
  • 演目:「乾元山;走辺一場」「挑滑車」「御馬監」
  • 場所:早稲田 大隈講堂
  • 評価:☆☆☆☆★
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早稲田大学21世紀COE演劇研究センター・演劇博物館主催による京劇の無料公演。同団体主催で来月中村福助出演・演出でクローデルの『女と影』が上演されることを知り、その告知をWebpageで確認したところ、偶然京劇の上演があることを知る。中国の代表的舞台伝統芸能である京劇はこれまで見る機会がなく、今日がはじめての鑑賞。来日中の天津京劇院と東京にある京劇劇団新潮劇院の共同公演で、京劇に強い影響を与えた昆曲と京劇の演目を上演。大学主催の無料公演となると、少ない予算で無理矢理行う「学術的」「実験的」なひとりよがりの公演も多いので、それほど期待はしていなかった。「無料で観られるならいいじゃない。京劇ってどんあもんか雰囲気だけでも観ておこう。ちょうど出講日だし」という感じで大隈講堂に行く。無料公演ということもあり会場はほぼ満席。
舞台装置はなく、『挑滑車』のときに役者が昇る台が運ばれただけだったが、もともと京劇は舞台装置を使わないものだそうだ。大がかりな舞台装置はないけれど、金糸をふんだんにつかい、派手な模様と色彩の扮装のきらびやかさ、華やかさには目を奪われる。最初の演目の『乾元山』は女性の演者による一人演舞。輪と長刀を巧みに操る。打楽器を基調とするがちゃがちゃとした激しい音楽とスピード感あふれるアクロバティックな動きのコンビネーションに目を奪われる。次の演目の『挑滑車』は極彩色の扮装と派手な隈取りメイク、異様な装飾品を身につけた数人の演者を中心に、多数の役者が参加する舞踊劇。洗練の極みにある様式感に満ちた動きとスピードと躍動感あふれる技能に、魂を奪われてしまう。まるで子供のように、無意識のうちに奥歯を噛みしめ、文字通り食い入るように張春祥の華麗で劇的な舞踊を目で追う。この過剰なまでの派手派手しさとサービス精神と超絶的に思える体のきれ、そして様式美にしびれるような環境を覚える。音楽もいい。打楽器の音色と弦とリード楽器のコンビネーションが情感をもりあげる。そしてときおり聞こえる役者の歌声も官能的な響き。上演形態や得意な衣裳やメイクは能を連想させるところもあるが、運動性の高いアクロバティックな動きの舞踊は直接的に観客の感性に訴える力強さと迫力がある。
これほど完成されたスペクタクル性をもった芸能をこの年まで知らずに、「演劇を研究」しているつもりなのだから恥ずかしいかぎり。
4時半からはじまった公演は7時過ぎまで続く。仕事があったため後半の演目を観られなかったことが残念でしかたない。天津京劇院は他でも公演するかとおもえば、ネットで検索したところどこにもひっかからなかった。早稲田での今日の公演のためだけに来日したってことはないと思うのだけど。そうだとしたらもったいない話だ。