閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

貞操花鳥羽恋塚(みさおのはなとばのこいづか)

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/6.html

四幕八場の通し狂言、上演時間は正味四時間。崇徳上皇後白河天皇の対立に発し、平家の栄華を決定的なものにした保元の乱の後、源氏再考前夜の時代の4つのエピソードを並べたもの。各幕の内容は独立性が高く、展開が有機的につながっているわけではない。江戸時代の歌舞伎の通例としてこの作品も「ドラマとして筋の通った物語を鑑賞する演劇ではなく」(プログラム、織田紘二)、南北らしい見世物、スペクタクルとしての嗜好が強く反映された作品。序幕での祇園社境内での華やかな舞と暗闇での坊主と侍とオンのだんまりの中での立ち回りのコントラスト、二幕目での頼豪阿闍梨のすさまじい怒りと怨念の表現、そして三幕目の魔王と変化した崇徳院の退場時の筋交の宙乗りの迫力、大詰で僧侶になった遠藤武者盛遠と渡辺亘の両花道を使っての美しい背景のもとでの退場シーンの静謐さなど、各幕に観客を惹きつけるスペクタクルが配置され、幕幕で観ると見応えのある力強い場面があるのだが、いかにも大歌舞伎らしい大規模なスペクタクルに高揚感を覚えたのは序幕まで。幕が進むにつれ冗長さを感じるようになった。上演時間が長いと言っても椅子に座っている歌舞伎座での公演とほぼ同じ時間、各幕は独立性が高く、別々の演目を観ているのとそれほど変わらないわけだが、やはり「通し狂言」ということで無意識のうちに各幕の内容に整合性のある展開を読み取ろうとしているためだろうか、見終わったあとは大きな疲労感を感じた。各幕の内容はそれぞれ濃厚なドラマがあり、スペクタクルにも富んでいるにもかかわらず、なぜかそれに見合った満足感は得られず、特に大詰の展開には退屈ささえ感じてしまった。
役者では尾上松緑、中村信二郎が印象に残る。