- 作:岸田國士
- 演出:宮田慶子(屋上庭園)深津篤史(動員挿話)
- 美術:伊藤ともゆき
- 衣裳:半田悦子
- 照明:礒野睦
- 出演:七瀬なつみ、神野三鈴、小林隆、山路和弘、遠藤好、大田宏
- 劇場:初台 新国立劇場小劇場 The Loft
- 評価:☆☆☆☆☆
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日本の近現代劇に大きな足跡を残した岸田國士については、その名を冠した演劇賞は知っていたけれども、作品を鑑賞したのはこれがはじめて。恥ずかしながらフランスに留学してジャック・コポーに学んだことも今夏の公演のパンフレットで始めて知ったのだった。これはフランス演劇研究者としては相当に恥ずべき無知。
一時間ほどの小篇二編。『屋上庭園』は1926年、岸田が36歳の時の作品、『動員挿話』はその翌年に発表された作品。
どちらの作品も登場人物は、劇的に無駄なく造形されていて、それゆえ作品は寓話的な色彩をも帯びる。二作品とも幸せな結末ではない。逆境の中で人としての尊厳を固持しようとしつつも、世間の「思いやり」の中でぼろぼろに傷ついていく人間の悲惨を描く。
『屋上庭園』の登場人物である「未来の文豪を夢見つつも仕事もなく貧困生活を続ける」並木の悲痛な虚勢と自信喪失の姿は、我が身につまされ、観ていて息苦しくなるほど。
『動員挿話』で貧しきなかでも、使用人という弱き立場のなかでも毅然と誇りを守ろうとする女の姿にじんとなる。とにかく二作品とも、現在の自分の惨めさを重ね合わさずにおれないような題材の作品であり、台詞の一言一言が投げナイフのように身に突き刺ささった。裕福な環境に生まれ育ち、作家として栄達を極めた岸田は、社会における競争の敗残者の姿を文学的にこれほど見事に描きながらも、そこに共感があるはずがない。「負け犬」たちの心理をこれほど冷徹に観察していたとは、なんという意地の悪さだろうか。
非常によくできた戯曲であり、戯曲のエッセンスを見事に引き出す丁寧な演出であった。しかし「作品」として客観的に捉えることが難しいほど、登場人物に激しく感情移入し、物語の中に入り込んでしまう。今年観た芝居の中では五本の指に入るほど強烈な印象を残した作品だった。