閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

DV ドメスティック・バイオレンス

http://www.fullmedia.co.jp/dv/index2.html

  • 製作年度:2004年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:85分
  • 監督:中原俊
  • 脚本:KAZU 、永森裕二
  • 音楽:小宮山聖
  • 出演:遠藤憲一 、英由佳 、高野八誠 、中原和宏 、高橋かすみ
  • 評価:☆☆☆☆★
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ドメスティック・バイオレンスという主題にはあまり関心はなかったが、中原俊監督作品ということで借りた作品。一組の夫婦のドメスティック・バイオレンスの状況の端緒から、その泥沼にどんどんとはまりこんでいく過程、痛々しい離脱までをリアルに描いた作品。
夫婦間の亀裂を意識しはじめ、いったん暴力のスイッチが入ったあと、家庭内暴力に病的にはまりこむ地獄のような状況の描写に戦慄する。家庭内暴力の地獄に陥る理由付けを安易に行っていないゆえに描写は説得力を持つ。
おそらく暴力による他者支配は、人間の本能的衝動にも関わりがあり、その抑制装置が外れるかどうかはごく微妙な人間関係のバランス次第であるような気がする。この映画を観て、僕自身に夫婦間暴力に陥りかねないような衝動があるのを発見し、嫌な気分になる。愛憎は表裏一体とよく言われるが、僕と妻の関係、そして僕と子どもといった他の家族関係は、生活時間をともにしているという濃密さゆえに、ちょっとしたバランスの崩壊で簡単に地獄になってしまうように思う。殴られる妻にとって生き地獄であることはもちろんだが、このゆがんだ関係性に夫も絶望していないわけはない。

暴力夫の恋愛表現はそのあまりの陳腐さゆえに、空虚な印象を与えるが、それに応えるおざなりな妻の反応も含め、自分たちの夫婦関係のの写し絵を見ているようで嫌な気分になる。
映画の中での夫の妻に対する執拗な暴力は理不尽そのものである。正当化される余地は全くないと思う。しかしにもかかわらず、僕は夫がいらつき、だんだんと暴力に歯止めがつかなくなっていく心理がわかるような気がするのだ。彼の行為は僕にとって全く不可解なものではない。それが恐ろしい。

主演俳優の夫婦の演技は迫真的で、その愛情表現の陳腐さと暴力描写の砂を噛むような味のなさにリアリティを感じる。。この映画が長編デビュー作となる英由佳の整然とした美貌と体型が印象的。その品のよさげな雰囲気ゆえに、加虐的な欲望をかきたてるようなエロティシズムがある女優である。もちろん監督はこういったねらいでこの女優をオーディションで選んだに違いない。
日常的な地獄を丁寧な写実で撮影しているが、、その内容は壮絶でショッキング。己の暴力衝動、倦怠した夫婦関係を客観視するための好材料となる作品だった。
不愉快な傑作である。