小谷野敦(ちくま文庫,2006年)
評価:☆☆☆★
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2001年に出た単行本版は発売時に購入して読んでいたが,新たに文章をいくつか加えたということで文庫版も購入する.60ページ弱の文章が「軟弱者2006年」という章立てのもと加わっていた.
小谷野氏が,人文系の大学非常勤講師稼業で,「もてない男」であり,音楽と芝居を愛好し,世間の不合理に対しルサンチマンの固まりといった点に強い共感を覚える.その攻撃力抜群の率直さと身も蓋もない言辞は,それが時に「やりすぎ」に感じられるときはあるにせよ,僕に大きなカタルシスをもたらす.「よくぞ言ってくれましたっ!」といった感じである.記述に敢えてつっこみたくなるような「スキ」をばらまいて,弱みもさらけ出してしまうといった「読者へのサービス精神」も小谷野氏の著作の大きな魅力である.小谷野氏がその言動においてエキセントリックになればなるほど,何かぞくぞくするようなよろこびを感じる.
この新版で唖然とし,若干の感動のようなものも覚えたのは,文庫版あとがきの末尾にある岸本葉子に当てられたあからさまな愛の告白である.岸本葉子の著作(と美貌)については小谷野氏は折に触れ絶賛しているので,僕も彼女の本を何冊か読んだのだが,著者近影にある美貌はともかく,著作に関してはユーモラスによくまとまった身辺エッセイという感じで目新しさもないし,その主題の日常性も僕の関心とは遠かった(自分の病に力強く向き合う決意を気負いなく述べた『がんから始まる』は名著だと思ったが).
小谷野氏の岸本葉子への執着とそのあからさまな表明ぶりには脱帽してしまう.二人の著作の記述内容から考えるに,この恋が実ったとしてもすぐに破局してしまうような気がするが(互いにかなり極端な神経質のようだし),万一この恋が成就するなら,小谷野の一読者として心より祝福できるような気がする.