- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1990/06/27
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
評価:☆☆☆☆
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
自己の分身のように緊密な交流を続けてきた著者の弟が五〇歳で肺ガンによって死ぬ。病名がわかってから死ぬまでの一年間の間、作者は弟には本当の病名を告げなかった。
人間は早かれ遅かれいつか死ななくてはならない。日本人の1/3はガンで死亡するらしい。ガン死はもっともありふれた死のあり方であり、日常的現象である。五〇歳でのガン死は平均寿命を考えると若死ではあるが、とりたてて悲劇的な死であるとは言えない。
肉親に、それもきわめて親密なつきあいのあった弟に訪れたガン闘病の様子を、情緒に流れることのない乾いた文体で、観察日記のような冷徹さで、著者は記す。その苦悶の細部を硬質の鉛筆で丁寧に描かれた細密スケッチを連想させる卓越した文章力で描き出す。そして弟の病に苦しみつつも、その死が実際に訪れる数ヶ月前から葬儀の準備を進める自分の冷徹さも。
文体の冷たい客観性ゆえに、ガンの日常性とそれに隣接した死の厳粛さがかえって効果的に伝わってくる。