閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オズの魔法使い

にしすがもアート夏まつり’07
子どもに見せたい芝居 vol.01

キャスト
ドロシー/前田幸恵
かかし/大高浩一
ブリキ/岡田宗介(Ort-d.d)
ライオン/山田宏平(山の手事情社
トト/井上貴子(双数姉妹

よい魔女/三橋麻子(Ort-d.d)
わるい魔女/スズキハルヨ
緑男/キャスター/小林至(双数姉妹
オズ大王/村上哲也(Ort-d.d)

アンサンブル/金子由菜 小林紀貴 杉村誠子 平佐喜子 谷口直子 凪景介 森山冬子 渡辺麻依

スタッフ
原作/フランク・ボーム(訳/幾島幸子)
上演台本/山田裕幸(ユニークポイント)
演出/倉迫康史(Ort-d.d) 
振付/井手茂太イデビアン・クルー) 
音楽/棚川寛子 
美術/伊藤雅子
衣装/竹内陽子
音響/藤田赤目 
照明/佐々木真喜子(ファクター) 
舞台監督/松下清永+鴉屋
協力/ワンダー・プロ

  • 劇場:西巣鴨 にしすがも創造舎特設劇場
  • 上演時間:1時間55分(休憩15分)
  • 評価:☆☆☆
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児童数減少のために廃校となってしまった中学校校舎を利用したにしすがも創造舎はこの夏でオープン三年目だとのこと。少子化のため都市部でも廃校となる学校が増えてきているが、その跡地はたいていの場合、適切な利用アイディアが出ないために、民間に売却されて宅地に変換される場合がほとんどだという。
比較的都心から近いという立地条件のよさも利したのだろうが、にしすがも創造舎は財政的な厳しさをおそらく抱えているにもかかわらず、東京国際演劇祭の会場となったり、ワークショップを開いたり、地域に根ざした演劇活動の拠点として地道に実績を積み上げているように見える。今日見た『オズの魔法使い』は、「にしすがもアート夏まつり」という夏休みのファミリー向け企画の一環であるが、この『オズ』の公演を核に、親子対象の音楽やダンス、舞台衣裳などのワークショップも行われている。
その様子を伝える写真パネルやビデオが会場ロビーに展示されていたが、なかなか楽しそうであった。演劇を核とする公共的な文化活動支援が地域共同体やNPO法人によって継続的に行われている例はそれほど多くないはずだ。にしすがもの活動には派手さはないが、堅実であり、演劇の公共的サービスの一つのモデルとなりうるものであるように思う。

さて肝心の公演であるが、なるべくおおくの子どもたちに演劇の喜びを伝えたい、という意図で、入場料は子どもは無料、大人は五〇〇円だった。無料公演となると客層が荒れて劇場の雰囲気が劣化することが多いのだが、完全無料ではなく大人の入場料として五〇〇円を設定したのが効を奏したのか、あるは豊島区民はもともと民度が高いのか、子どもの観客が半分以上を占めるにもかかわらず、客は思ったより行儀がよい。歌舞伎座の三階席の平均よりはるかにマナーがよいように思われた。
ピアニカやリコーダーなどの教育楽器と打楽器類を組み合わせたアンサンブルの演奏者が左手に固まる。この演奏者自身も珍妙な道化師のような派手な衣裳を着て、時折舞台中央で演技をする。衣裳の趣味はとてもいい。オズの空想的世界を童話的かつちょっとサイケデリックな遊びも入れて映し出す。舞台美術や照明の使い方も洗煉されている。時折ぎこちなくカクカクとダンスの動きも滑稽で目を楽しませる。
楽隊の演奏に乗っかって客席後方からドロシーとともに冒険に向かうかかし、ライオン、ブリキ人形が客席後方から入場し、舞台奥に張られた幕の向側に消えていくオープニングは満点。これから始まる物語への期待が膨らむ。
しかし実際始まってみると、個々のパーツや場面場面の視覚的美しさには素晴らしいものがあるのだが、演技のリズムが悪くてめりはりがない。細かい演技上の工夫はたくさんあるのだが、それがかえって展開を冗長にしているようにも思える。とにかくだらだらしていて退屈なのだ。舞台の照明も全般に暗すぎる。前半は半睡状態での鑑賞になってしまった。
脚本がまたつまらない。要所要所のスペクタクルでは見せ場をうまく作っていても、こう脚本がつまらなく、凡庸で芸のない解釈に基づく演技が続くとやはりしんどい。こどもの観客だとなおさらだと思う。
役者が合図をすると、群衆に見立てられた観客が旗を振るという観客参加の仕掛けもあまり効果的ではない。観客を取り込むならあと一,二種類なにか工夫が欲しかった。