閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

KANADEHON忠臣蔵

花組芝居
http://www.hanagumi.ne.jp/

   植本潤 桂憲一 八代進一 大井靖彦 北沢洋 横道毅
   嶋倉雷象 高荷邦彦 各務立基 秋葉陽司 松原綾央 磯村智彦
   小林大介 美斉津恵友 堀越涼 谷山知宏 丸川敬之 二瓶拓也

全十一段、歌舞伎や文楽での通し上演だと十時間以上かかるという『仮名手本忠臣蔵』を、二時間半に圧縮して全段上演するという意欲的な企画。「忠臣蔵」については昨年国立劇場での真山青果『元禄忠臣蔵』の通し上演、今年二月の歌舞伎座での『仮名手本忠臣蔵』の通しを見た。「忠臣蔵」を題材とする作品は江戸から現代にかけて膨大な数があるが、正直なところ今ひとつ僕にはこの題材の面白さがわかっていない。昨年『元禄忠臣蔵』と『仮名手本忠臣蔵』の二本を通しでみて、ドラマとしての構造の面白さは何となくわかった気がしないでもないのだが、主題に入っていけないのだ。『仮名手本』に比べるとはるかにストイックで生真面目な雰囲気の漂う『元禄忠臣蔵』でさえ、芝居の世界と割り切ってはいても、首をかしげたくなるような登場人物の行動はいくつもある。少なくともあそこに出てくる登場人物に素直に感情移入することは僕にはできない。

さて花組芝居版『忠臣蔵』だが、歌舞伎版で通しでやれば10時間以上かかる大作を2時間半に圧縮しているのだから、あたかも早回しで芝居を観ているような感覚である。個人的には歌舞伎版のゆったりとした展開にはちょっとうんざりし退屈を感じていたので、この早回しのスピード感は心地よく感じられた。各場面の連係の滑らかさやその連係を可能にする計算された役者の動きの美しさが印象的だった。
仮名手本忠臣蔵』の原作の精神は基本的には尊重した翻案になっていたが、6段目、何重かの勘違いが原因で切腹するはめになってしまう勘平の悲劇や、七段目の敵の目をくらませるために由良助が祇園の茶屋で遊び回るという策略の間抜けさ(大らかさとも言えるが)、しっかりとつっこみを入れるという演出は個人的にはたいへん愉快だった。最後の段、襖の上手く使ったスピードとダイナミズムのある討入りの表現も見事であり、全体として爽快でからっとした『忠臣蔵』になっていた。歌舞伎味も要所に残した上で、現代的なリズムで古典を崩して再構成するやり方に拒否感を持つ人も多いかもしれないけれど、僕としては『忠臣蔵』という自分にとってはまだとっつきにくい素材をまた別の角度から楽しむ方法を教えてくれたような舞台だった。原典へのオマージュと言ってもいいような精神を感じさせる翻案・演出であることにも好感を持つ。