閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

廃車長屋の異人さん

  • 演出:鈴木忠志
  • 原作:マクシム・ゴーリキー『どん底』
  • 翻訳:神西清,芳信(中国語),石川樹里(韓国語)
  • 照明:丹羽誠,川島幸
  • 衣裳:満田年水
  • 出演:蔦森晧祐/竹森陽一/加藤雅治/新堀清純/三島景太/貴島 豪/高橋 等/奥野晃士/武石守正/植田大介/内藤千恵子
  • 上演時間:1時間30分
  • 劇場:初台 新国立劇場中劇場
  • 評価:☆☆☆

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丘のように積み上げられた廃車とそれを照らし出す照明の効果の光景はインスタレーション・アートのような見事な造形美を作り出していた.ゴーリキーの描き出した最下層社会の絶望的世界に美空ひばりの歌を重ねるというアイディアも素晴らしいと思う.三カ国語が飛び交う舞台は混とんとした現代世界の勝れた象徴となり,「どん底」というテクストの選択は現代日本社会で顕在化しつつある新しい下層階級やネオリベラリズムの風潮,社会的倦怠感といった同時代的な切り口に導き出す.
しかし怒鳴りつけるようなやり方でやりとりされることによる台詞の平板化は,オリジナルのテクストの持っていたアフォリズム的な味わいを消し去ってしまい,作品を動きのない単調なものにしてしまったように思う.役者が廃車の中に閉じこもったままであるため,鈴木忠志の舞台に特有の舞踊的な役者の動きも封じられ,停滞感の強い舞台になってしまった.照明も暗めだったこともあり,周囲の老人の観客に眠っている人の多いこと.