閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

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ハイリンド 第6回公演
http://www.hylind.net/index.html

  • 作/デイヴィッド・オーバーン
  • 翻訳:小田島恒志
  • 演出:松本永実子(演劇企画JOKO)
  • 美術:向井登子
  • 衣装:阿部美千代
  • 出演:伊原農 枝元萌 多根周作 はざまみゆき
  • 場所:下北沢・小劇場 楽園
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆★

2001年にトニー賞、ピューリッツァ賞を受賞し、映画化もされた作品の上演。2001年に寺島しのぶ、秋山奈津子出演、鵜山仁演出で上演されているようだが、僕は未見、映画も見ていない。加藤健一事務所俳優教室出身の4人の役者によるユニット、ハイリンドの舞台を見るのも今回が初めてだった。
たった4人の登場人物によって、密度の濃い、充実した2時間が作られる。戯曲そのものもすばらしいのだけれど、役者の緊密なアンサンブル、そしてとりわけ主役を演じた女優(はざまみゆき)の演技の求心力が強烈な印象を残す。細部にまでしっかり注意を払った丁寧な楷書体で書かれた書のような周到で完成度の高い舞台だった。それぞれの人物造形が類型に陥ることなく、奥行きの感じられる多面的な人間像がしっかりと表現されていることに感心する。心理のゆらぎや陰影が実に細やかに、手や表情の微細な動きによって表現されていたように思う。

題名が示唆するように、数学の「証明」が話の核になっている。若い頃天才的な数学者だった父が、晩年の数年間を狂気の中で暮らす。妻はだいぶ以前に死別している。二人の娘のうち、長女は父と離れニューヨークでキャリアウーマンとして成功をおさめる。父の数学的才能を受け継いだ次女は、父のもとにとどまるが、狂気に陥った父の世話をするために数学者としてきわめて貴重な20代前半の数年間を犠牲にする。
父親が心不全で急死し、次女は放心状態に陥っているところから舞台上の物語は始まる。愛情、憎しみ、悔恨、嫉妬、悲嘆、絶望、歓喜、希望、信頼、不信、様々な感情が死んだ父が遺したノートを中心に、次女、長女、そして父親の弟子であった若い数学者の間で交錯する。