閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

荒地 ─演劇的インスタレーション─

PortB
http://portb.net/frame.html?news.html

廃墟となった図書館での音のインスタレーション。豊島区立図書館は現在東池袋にできた、劇場あうるすぽっとのある新築ビルに移転していて、向原の旧図書館建物はまもなく取り壊されるという。
この旧図書館は、3月にPortBが行った町歩き演劇「サンシャイン62」のチェックポイントの一つでもあった。「サンシャイン62」ではサンシャイン60やビルが建つ前に東池袋になった巣鴨プリズンにまつわるインタビューや映像を見るポイントが何箇所かあったのだけれど、今回の「荒地」はこの延長線上にある試みだった。


旧図書館は三階建て。図書館には、空の書棚ががらんとした暗い空間に並んでいる。館内のあちこちに小さなスピーカーが設置され、そこから音声が終始聞こえてくる。
一階の各部屋では、「サンシャイン62」のときにも部分的に聞いた、サンシャイン60建設についての周辺住民のインタビューが流れる。二階では断続的に響くピアノの音楽の断片に合わせ、田村隆一の「立棺」を朗読する声がほうぼうから聞こえてくる。「立棺」は時に複数の朗唱者のユニゾンで、時に単数の朗唱者によるささやくような朗読で、流れる。
三階の各部屋では、1951−58年に毎年一冊ずつ刊行された『荒地詩集』から採られた何本かの詩が、単独の朗唱者によって朗唱された録音が流れる。窓を開けると池袋界隈の民家の密集、そしてその中にすっと聳え立つサンシャイン60が見える。私が入場したのは夕暮れから暗くなるころであったが、二つの風景の見事な対照が大変印象的な光景だった。
全体的には前回の待ち歩き演劇「サンシャイン62」の同様の主題が浮かび上がってくる。サンシャイン60とその周辺の風景を中心に、『荒地詩集』とインタビューをその風景に重ねることで、ほとんど忘れかけていた戦後史の暗闇を浮かび上がらせようとするものだった。チェックポイントからチェックポイントへと歩き続けることを強いられてた「サンシャイン62」ツアーとは違い、このサウンド・インスタレーションでは参加者はそれぞれ自分のペースで会場を回り、スピーカーから流れる声にじっと耳を傾けることができる。廃墟の図書館の暗闇のなかで響く声に耳を傾ける行為は、この地にとりついたまま成仏することなく漂う亡霊の声を聞くような体験であった。

場所の特性が効果的に用いられている。空の書棚が並ぶ暗い図書館廃墟の中では、無人であるが、つい最近までそこにたたずんでいた人がいるような錯覚を覚える。古い傷口が疼くような感覚を味わうことができたインスタレーションだった。