Port B ツアー・パフォーマンス
http://portb.zone.ne.jp
- 構成・演出:高山明
- セカンドライフ製作:井上達夫
- 映像:宇賀神雅裕,郷田真理子,三行英登
- 音源製作:宇賀神雅裕,高山明
- 不動産:牧つづみ,林立騎
- ドラマトゥルク:林立騎
- リサーチ:Port B
- 集合/受付場所:東池袋 あうるすぽっと
- 所要時間:約四時間四十五分
- 満足度:☆☆☆☆
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五人一組となった観客が,渡された地図,指示書,カメラを持って,池袋サンシャインビル周辺に指定されたポイントを巡るという観客参加型のパフォーマンス.Port Bが主催するツアー・パフォーマンスはこれが第三弾だが,僕が参加するのは今回が初めてだった.
ちらしには所要時間は約三時間となっていたが,前に出発した組が道に迷うなどのハプニングやコース見積もり時間のずれなどがあり,実際のツアー所要時間は四時間半を超える長丁場となった.
池袋のランドマーク,サンシャイン60にまつわる歴史の物語が町歩きの過程を通して明らかになってくるという仕組みである.街と歴史をテーマにした大規模なオリエンテーリング+リアルRPGゲームといった趣きだった.そこで提示された物語の内容,提示方法については正直抵抗を感じる部分もあったが,町中に設定されたチェックポイントの選択が秀逸で意外性があった.また池袋周辺は比較的僕には馴染みのある土地なのだけれど,町歩きパフォーマンスの中で新しい発見も多かった.企画の目の付け所のよさ,ユニークさに感心する.総じて満足度の高い,とてもたのしい体験だった.
以下,ネタバレとなる.備忘録としてパフォーマンスの内容を記しておく.
ツアーに参加する予定の人は以下のレポートは読まないほうがよいだろう.というか読んでは楽しみが半減してしまうに違いない.
五人組のグループで三十分ごとに東池袋のあうるすぽっとを出発する.出発前に五名のメンバーにはそれぞれ役割が割り振られる.二名は地図係,目的地を記した地図を持ってグループを誘導する.一名は指示書を持つ.指示書には目的地に向うまでの目印や到着したら行うタスクが記されている.一名が時間係.各ポイントへの所要時間,ポイントでの滞在時間はあらかじめ決められている.時間係は時計兼ストップウォッチを持って,時間通りの進行を管理する.残った一名はカメラ係.デジタルカメラを持ち,各チェックポイントから見えるサンシャイン60の姿を主に撮影する.
この役割分担はツアーの過程で二度変更された.最初に渡された地図と指示書には4つのチェックポイントしか記されていない.
最初はあうるすぽっとから七分ほど歩いたところにある廃校した小学校の体育館.体育館に入ると中央附近に置かれた椅子の上にあるラジオからインタビューの音声が聞こえる.ただしその音声は途切れ途切れで聞き取りにくい.指示書に従って,体育館脇の小さな部屋に入る.窓を開けるとそこからサンシャイン60が見える.個室にはやはりラジカセが置かれそこからサンシャイン60近辺に昔から住む住民のインタビューが聞こえている.しばらくそのインタビューの内容を聞く.
二番目のチェックポイントはその小学校から7,8分行ったところにある古ぼけたラブホテル.フロントで最上階の部屋の鍵を受け取る.その部屋のテレビにサンシャイン60の映像と何やらスピリチュアルな内容のテクストが映し出されている.
ホテルを出て池袋のジュンク堂書店へ.一階で待ち受けていたツアー・スタッフからMp3の端末を受け取り,そこで流れる録音を聞きながら最上階へ.録音の内容はサンシャインが建設される前の巣鴨プリズンの話だったように思う(あやふや).最上階の洋書売り場奥にサンシャイン60を臨むポイントがある.そこで撮影.そこには一冊の写真集に印があった.めくってみると現在と過去の東京の町を並べた航空写真の写真集だった.池袋のサンシャインがかつて戦犯が収容された巣鴨プリズンのあった場所であったことが写真で示されている.
次のチェックポイントはマンションの一室.そこからサンシャイン60が見える.砂がしかれた箱の中に観客それぞれが自由にオブジェを配置して,箱庭が作られるように指示される.ここで役割分担の変更が行われ,新しい地図と指示書が渡される.
新たに渡された地図はこれまでの地図とちがい,手書きの絵地図風のもの.到着地の名称などもしるされていない.
マンションからその近所にある墓地へ.墓地の一角からサンシャイン60が見える.そこからさらに古びた住宅街の中にひっそりとある小さな喫茶店に向う.喫茶店の窓からサンシャイン60が見える.喫茶店ではコーヒー,紅茶がサービスされる.時代に取り残されたような小さく古ぼけた喫茶店だった.
喫茶店を出て鬼子母神へ.鬼子母神からかつて手塚治虫がそこで鉄腕アトムを画いたという並木ハウスに向う.並木ハウスは鬼子母神から歩いて2,3分のところ.築四十年を超えるレトロな雰囲気満点のアパートだった.このアパートの踊り場からサンシャイン60を見ることができる.このアパートの一階の一室で新たな地図と指示書をもらう.指定された部屋の中では若い男がパソコンをいじっていた.無愛想でこのツアーのスタッフなのかどうかは不明.玄関で地図と指示書を受け取って外にでる.新たな地図は航空写真に印をつけたもので,都電のキップが添付されていた.
指定された時間まで15分ほどあることが判明.鬼子母神まで戻ってあたりをブラブラ散策するか,あるいは並木ハウスにもう一度戻り,あの無愛想な男の部屋を訪ねるか,意見が分かれる.鬼子母神参道の民家の一見がドアを開け放し,大木の木材と作りかけの家具を並べている.老人二人がその家の前で立ち話をしていた.ツアー参加者の一人,最高齢の老人が木に興味があるらしく,その老人二人に話しかける.えらく愛想のよいじいさんで鬼子母神のことなら何でも聞いてくれとの話.彼から鬼子母神参道の今昔など興味深い話を十分近く聞く.これはツアー想定外のハプニングだった.記念写真をその老人二人と撮った後,都電荒川線に乗り,三駅先の向原まで行く.
向原で下車し,昨年夏に移転のため廃虚となった旧豊島区立図書館に入る.中はがらんとしている.一回の部屋では,過去に行ったPort Bのサンシャイン60についての舞台公演のビデオ映像が流れ,がらんとした空の書架の並ぶ二階三階ではサンシャイン60についてのインタビューの音声のみが流れる.巣鴨プリズンに拘置され,あるいは処刑された軍人についての話だった.
次の目的地は図書館から五分ほどのところにあるマンションの一室.住民がいて迎えてくれる.早稲田の演博の助手だという彼の専門はドイツ演劇.ドイツの第二次世界大戦の戦犯裁判が行われたニュルンベルクの話を地図や図像を見ながら聞く.このアパートの廊下からサンシャイン60を臨むことができる.そこで写真を一枚.
マンションを出るとタクシーが止まっていた.一台のタクシーに五名が乗り込む.到着したのはサンシャインシティのプリンスホテルの入り口.ツアーのスタッフが一階で待っていて,彼女の案内で上階の客室に行く.そこで巣鴨で処刑されたB,C級戦犯について語っている録音を聞く.プリンスホテルから,その隣にある東池袋中央公園へ.この公園の一角にひっそりと巣鴨プリズンで処刑された戦犯の慰霊碑がある.ここでサンシャインシティを撮影.多くの戦犯が拘置され,処刑された巣鴨プリズン跡に大規模なショッピングセンターが建設されるというのはたちの悪い冗談みたいな話だ.サンシャイン60は戦争犠牲者のための巨大な白い墓標のように思える.
アムラックス東京に行き,入り口でMP3を受け取る.戦没した画学生の絵を収集する美術館,無言館館長の窪島誠一郎氏のインタビューの音声がmp3から流れる.アムラックス東京の地下一階から四階までをエスカレータで往復する間にその録音を聞く.
この後,歩いてあうるすぽっとに戻る.あうるすぽっとの劇場内で,セカンドライフのアバターを使ってツアーを反芻し,ツアー終了.この最後のまとめの部分では,東池袋中央公園での慰霊碑に手を合わせるかどうかをイエス,ノーで表明するという指示が与えられる.この表明の前に別室でグループで話し合い.この話し合いの模様が録音され,あとで再利用されることが告げられないこと,質問の内容自体の誘導性の強さに大きな違和感を覚える.
またサンシャインを巡るテーマが,その前身である巣鴨プリズンの問題に集約されすぎていることによって,参加者の精神的な自由,想像力を強く束縛されてしまうことにも不満を持った.
ツアーで撮影した数々の写真は,最後の「映画」で再利用されたが,できればツアー参加の記念として欲しかった(パスワード付きでWebアルバムにアップロードするかたちなどもやろうとおもえばできたとおもうのだが).
締めくくりの部分での後味はよくなかったのだけれど,ツアー企画の目のつけどころは大変興味深いものだった.どんな街にも掘り起こすことのできる興味深い物語はあるはずだ.いろんな規模,用途で応用可能な,豊かな可能性を有する試みであったように思う.