閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

サンタクロース会議

青年団 第58回公演
http://www.komaba-agora.com/line_up/2008_12/santa.html

  • 作・演出:平田オリザ
  • 舞台美術:杉山至 
  • 照明:岩城保
  • 舞台監督:中西隆雄
  • 衣裳:有賀千鶴
  • 出演:木崎友紀子 川隅奈保子 兵藤公美 島田曜蔵 工藤倫子 鈴木智香子 

田原礼子 村井まどか 安倍健太郎 小林亮子 立蔵葉子 山本裕子 畑中友仁

平田オリザがはじめて書いた子供向きの芝居、それも参加型の芝居ということで期待が大きかった。既存の子供向け芝居にはない新しい仕掛けを期待したのだ。
小学校二年生の娘と娘の同級生の男の子二人を連れて見に行った。

劇場に入ると、ゆるやかな半円状に机といすが並べられている。机に囲まれるように中央部にはベッドが置かれ、誰かがすでに寝ていた。会議机にはもう何人か役者が座っていて何やらやっている、という青年団ではおなじみのスタイル。
ただし演技は普段の青年団のハイパーリアルな演技とは異なり、誇張された表現によるいわゆる芝居臭い芝居だった。

『サンタクロース会議』というタイトルから、サンタクロースが何人も集まって会議するのかと思えばそうではなく、サンタクロースに関わるいくつかの問題(「どうやって家のなかに入るのか?」とか「どこに住んでいるのか」、「プレゼントをどこで用意するのか」等々)を、お父さんやお母さん、先生、そしてサンタクロース専門家の博士、そしてなぜか魔女が討議するというものだった。客席の子供たちも会議傍聴人としてみなされ、議長から意見や質問を求められることがある


子供席からの質問には、舞台上の人物が即興的に答える。僕が見た回では一人利発な女の子がいて彼女が積極的に質問していたが、全体的には質問が飛び交う活発さはなかった。自然に子供たちの意見を引き出すには、質問の振り方にもうひと工夫必要なのだと思う。
適当に質問をとりあげたあとで、子供席に座っている子供役の役者をあてて場を進行させるという仕組みになっていた。

平田の自作の『御前会議』のパロディのようなつくりの芝居だった。子供受けは悪くなく、僕が連れてきた小学校二年生はおおむね楽しんだようだった。しかし僕はもっと斬新な仕掛けの子供向け芝居を期待していたので物足りない感じがした。平田オリザの芝居っぽいシニカルな大人向けの台詞も何箇所か入るのだけれど、子供向けと称する芝居でそういった薄められた毒を入れる必要性を僕はあまりかんじない。こうした大人向けのせりふは「笑い」としてもそれほど効果的であるようには思えなかった。そもそも子供を観客層として想定した芝居で、大人向きのしかけをあえて入れる必要はないと僕は思う。大人向けの仕掛けがないからといって、大人が芝居を楽しめないわけではない。

子供向け芝居にもかかわらず、あえて子供が感情移入しやすい、「こども」を主人公としなかったり、サンタクロースを登場させなかったり、物語を語らなかったりするところに、青年団-平田オリザの子供芝居の独自性を出そうとしたのかもしれない。しかし今回の作品に関しては、そうした「気負い」がうまく機能していたようには思えなかった。こうした仕掛けの一方で、青年団特有の「温度の低い」リアルな表現を捨て、いわゆる芝居臭い、滑稽さを強調した演技を採用していたことには、僕はちょっとがっかりした。実際ガミガミ博士のエキセントリックな演技を子供はかなり面白がっていたのだけれど、個人的には芝居の内容ではなく、青年団独自の演技様式のほうで作られた子供芝居を期待していたのだ。

全体的には狙いどころがぼやけていて、いまひとつすっきりとしない公演だった。
会議のなかで子供に質問させるという仕掛けも、どちらかといえば予定調和で意外性が乏しい。「参加型」と銘打っているわりには、観客が参加することで芝居が大きく変わっていくようなダイナミズムが感じられないところにも不満を覚える。

疑似会議の根本にある「サンタクロースがいるかいないか」という問いかけも、あの会議での扱いは陳腐で新鮮味に欠ける。たぶん、子供にとっても切実な、真剣な問いかけとしては成立していなかったように思う。小学生ぐらいになると、多くのこどもたちは、サンタクロースの存在を、おそらく信仰を持っている人が神の実在を信じるようには、信じていない。かといって「いない」と否定しているわけでもない。本当にいるか、いないか、ってことは、そのくらいの年齢の子供にとっては切実な問いかけではなく、とりあえず「いる」ってことにしておいて(親や世間もそう期待しているみたいだし、そうしておいたほうが面白そうだし)、その「いる」って世界のファンタジーを楽しもう、という感じだと思う。

「会議」ってかたちで振られれば、子供たちは、その約束事のなかで、それなりの答えを返したり、質問したりするぐらいには学校で「社会化」されている。小学生ぐらいの子供のほうが、大人よりかえって、周囲の期待に応えてしまう、類型的なことばを使ってしまう傾向もある。学校の「会議」さながらの、あのやりかたでは作品の流れに関わるような意外性のあることばはなかなか引き出せないように思った。しかも最終的には「子供役」の役者の質問なり発言で、話の流れが整えられてしまうのだから、展開がスリリングなものになりえない。

劇が終わったあと、「サンタクロース会議」は続く、家族で話してみてください、という提案のもいかにも「学校的」発想、教育的意図があからさまで白けてしまう。「放課後」までサンタクロースうんぬんといった問題について大人と討議したいと思うほど、小学生は素朴ではないと僕は思う。ああいった問いかけが切実でありえるのは、もっと小さい子(3,4歳ぐらい?)のように思える。問いかけの内容とそこで使われている表現(ひねりがあってけっこう難しい)とのギャップが大きいアンバランスな芝居になってしまった。


といろいろ不満は書いたのだけれど、不満がたくさん出るのは期待が大きかったからだ。平田オリザ・青年団によって、新しいこどもむけの演劇の可能性が広がりを持つことには大きな意義があると思う。今後も1年に1本ぐらいのわりでこうした試みを続けて欲しい。

子供向きとは銘打っていなかったけれど、青年団所属の演出家、柴幸男が11月に多摩川線の車両を使ってやった「川のある町に住んでいた」
http://d.hatena.ne.jp/camin/20081103
は、子供から大人まで存分に楽しむことのできる見事な芝居公演であり、観客参加型の企画だった。僕が今回の青年団子供向き公演に期待していたのはああいう企画だったのだ。