閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ねずみ狩り

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うずめ劇場第23回公演

  • 作:ペーター・トゥリーニ
  • 訳:寺尾格
  • 演出:ペーター・ゲスナー
  • 美術:内山勉
  • 照明:桜井真澄
  • 出演:荒牧大道、後藤まなみ
  • 上演時間:1時間20分
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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一見の価値はある刺激的な舞台だった.70年代初頭にオーストリアで書かれたドイツ語の作品を,ドイツ人演出家,ペーター・ゲスナーが演出する.ゲスナーは北九州を本拠とするうずめ劇場の主宰だが,昨年からは調布市の仙川にできた新しい劇場の芸術監督も務めている.僕は今回はじめて彼の演出作品をみた.

70年代のアングラの雰囲気を濃厚に持つ社会的で,政治的で,挑発的で,攻撃的なテクストだ.作品の雰囲気はちょっと東京デスロックのスタイルを想起させるところがある.
まずゴミを象徴とする文明社会批判は明らかだ.ゴミの島は我々の世界の,そこを走り回る薄汚いネズミは我々そのものの暗喩となっている.そしてこの主題に愛の不毛,コミュニケーションの不全の殺伐とした状況が重ねられる。これらのメッセージはごつごつとしたディアローグによって観客に投げつけられるように提示される.観客がその状況に無理矢理引き込まれるかのように錯覚してしまうような強引なやり方で.

実質的には男女の二人芝居.今回の公演では4組の組み合わせで上演されるが,それぞれ演出が異なるとのこと.僕が見たのはCバージョン,若い崩れた雰囲気の男女の組み合わせだ.
最後には男女とも全裸.日本人女優があそこまできっぱりと全裸を舞台上でさらすのを見たことはこれまでなかったかもしれない.
いかにもドイツっぽいとんがった風刺劇だった.ほかのバージョンも本当は見てみたい.がらっと違う雰囲気の芝居になっているような気がする.

三月末にせんがわ劇場でゲスナー演出によるダリオ・フォーの芝居(『開かれたカップル』)の上演がある.三月末は見たい芝居が重なっているのだけれど,この芝居もぜひ観てみたい。

以下,内容概略.
二人はドライブでゴミ処分場(埋め立て地)にやってくる.男はこのゴミ処理場を走り回るねずみを銃で撃ち殺すが趣味らしい.ねずみを何匹か撃ち殺したあと,男は女に性交を迫るのだが,女はそれを激しく拒否する.二人は旧知の間柄というわけではないようだ.まったく互いについてわかり合えないのに性行為ができるのか,と女は激しく問う.相互理解のために二人は激しい勢いで互いの所有していたものを一つ一つ確認し,それを次々とゴミの山のなかへと投げ捨てる.自身をはぎ取り,破壊していくような喪失の果てに彼らが行き着いた愛のかたちとはどのようなものだったのか.