閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

白雪姫〜グリム童話『白雪姫』より

鳥の劇場
BIRD Theatre Company TOTTORI 特定非営利活動法人鳥の劇場

  • 構成・演出:中島諒人(まこと)
  • 照明:齋藤啓
  • 音響:村上裕二
  • 装置:赤羽三郎
  • 舞台美術:中島諒人
  • 衣裳:本田悠子
  • 出演:呉暁丹、中川玲奈、齊藤頼陽、ホン・ウジン、葛岡由衣、赤羽三郎
  • 作曲:武中淳彦(ヴァイオリン、ヴィオラ演奏);大野日菜(ピアノ)、増谷京子(パーカッション)
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 上演時間:70分
  • 評価:☆☆☆☆★
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グリム童話の『白雪姫』の舞台版。展開のリズムが若干単調で眠りに落ちそうになったところもあったけれど、全体的には非常に興味深い舞台だった。
話の流れはグリムの内容をほぼ忠実に踏襲したものになっており大きなアレンジは加えられていない。日中韓の役者の共演による舞台。

意地悪な継母の役割が強調されている。継母を演じる役者の極端にデフォルメされた表情の変化、ぎくしゃくとした動きがグロテスクで滑稽な雰囲気を作り出している。7人の小人は手足に仮面をつけた一人の役者によって演じられる。木の葉を身体につけた「コビト」は異形の森の妖精、あるいはイングランドの伝統的な森の怪物グリーンマンを想起させる。フランス中世にはフェイユfeuilleと呼ばれる野人の信仰があった。この野人は葉っぱや木の枝を全身にまとっている。フェイユの姿は教会建築の彫刻などに残されている。もしかすると演出家はこびとの造形にあたってこうしたヨーロッパの古い民俗についての図像資料を利用したのかもしれない。演出家は森の奥に隠棲するコビトたちの存在を、村から隔離され森奥で生活するサンカなどの被差別民を思い浮かべたそうだ。私はヨーロッパ中世における木こりや炭焼きの存在、その社会的位置づけを連想した。

白雪姫がかくまわれる小屋の造形も非常に興味深い。緑の葉っぱのついた木々で作られているのだ。これも中世のトリスタンとイズーの伝説で、不倫の恋人が潜んだ森の住居を思わせる。中世語の文献ではやはり緑の葉のついた粗末な小屋に彼らは身を隠したのだ。緑の葉のついた枝で作られた小屋はおそらくある種の結界を作り出し、そこは聖域として他者が容易に踏み込めないアジールとなっていたのだ。
白雪姫における「森の人」に演出家はケルト的な多神教アニミスムを想定したと言う。おそらくグリム童話の原型的イメージとして非キリスト教的な自然観、世界観が「白雪姫」の物語に投影されているのは間違いないと思う。鳥の劇場版「白雪姫」は民話が持っている原型的イメージまで掘り起こし、それを美術と演技によって可視化することで、白雪姫伝説が内包する得体の知れない不気味さを描き出すことに成功している。ただし小さい子供は怖がるだろうなあ。この芝居を観た後は悪夢にうなされてしまうかも。子供向き芝居としては表現がちょっと高踏的であるように思った。

鳥取市を本拠地とする鳥の劇場の公演を観るのは今回が初めてだった。
人口20万人の田舎町で劇場を維持し、高いレベルの作品を作り続けることは並大抵のことではないに違いない。地方の小さな町に独特な演劇活動を続けている劇場があるのは非常に素敵なことに思える。何か夢のような気さえする。 いつか鳥取に行って鳥の劇場の公演を観てみたい。