閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヴェローナの二紳士

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劇団シェイクスピア・シアター

シェイクスピア・シアターによる『ヴェローナの二紳士』の公演を俳優座劇場で観る。この作品は、戯曲を読んだこともないし、舞台での上演を観るのもこれが初めてである。シェクスピアの作品の中でもごく初期に制作された作品だという。
恋愛衝動のみに繰り動かされ、熱病に憑かれたように愛していた国の恋人を裏切り、卑劣な権謀術数をつかって親友を裏切るプーテュースという男の人物造型が面白い。リビドーの権化のような異常な人物である。この奇矯な人格をどう提示するかが、この作品のポイントのように思った。
自分のエゴイスティックな恋の成就のために、恋人や親友を平然と裏切るような倫理観が欠如した人物なのだが、最後にはその両者に許されて大団円。
もう一人の「紳士」であるヴァレンタインは、恋愛沙汰で逗留先のミラノを追放された後、山賊の首領に祭り上げられてしまうなど、荒唐無稽で極端な展開もあり、喜劇と言うよりは笑劇的作品だった。
前半は展開が散漫な感じがして、舞台もがらんとした感じ。後半になるに従って密度が増していく感じ。男装の恋人などシェイクスピアらしい演劇的な仕掛けを利用したばかばかしいお話で、結末の安易さには拍子抜けしてしまうが、その明朗快活さは心地よい余韻をもたらす。
平澤智之は、姿、声とも美しく、いい役者だなぁとあらためて思った。正直彼が立派すぎて、全体のバランスが安定感に欠ける感じもないではない。女山賊はキャスティングの関係で仕方ないにしても、観ていてやっぱりしんどい。白雪姫のコビトに思えてしまった。住川佳寿子の男装姿は、個人的に、かなり萌えた。
道化の下僕役、スピードは女性が演じていたが、違和感を感じなかった。役名そのままの軽やかなスピード感ある演技は印象に残る。今回、道化下僕役はふたりとも軽妙な味があって悪くなかった。ルーセッタの佐々木暁子は落ち着いた雰囲気の乳母・侍女で、恋にもだえるジュリアの対照をしっかりと示していたように思う。

全体的には戯曲の特性をしっかりと伝えるシェイクスピア・シアターらしい舞台で、独特の台詞回しの工夫などにも感心したが、全体的にはどこかスカスカとしていて物足りなさも感じる舞台でもあった。 笑劇風作品の割には、抑制がききすぎていて、前半は特に地味で明るさが乏しいように思った。はじけた笑劇的な滑稽味がもっと欲しい。