閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

のるもの案内

時間堂+スミカ
時間堂
「池袋から日暮里まで」

  • 脚本:黒澤 世莉
  • 演出:原田 優理子

「真ん中から少し浮く」

  • 脚本:原田 優理子
  • 演出:黒澤 世莉
  • 出演:黒澤世莉(時間堂)、菅野貴夫(時間堂)、鈴木浩司(時間堂)、大川翔子(劇団競泳水着)、金丸慎太郎(国道五十八号戦線/贅沢な妥協策)、津留崎夏子(ブルドッキングヘッドロック)、菊池美里、原田優理子(トリのマーク(通称))、戸谷絵里
  • 場所:池袋 no smoking cafe MODeL T
  • 上演時間:55分
  • 評価:☆☆☆★
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定員25名ほどのこじんまりした公演。チケット予約したあとで劇団から封筒が郵送されてきた。厚手の色画用紙で作られた公演案内のほか、葉書が一枚入っていた。芝居で使うので記憶に残る旅の思い出の絵を描いておくようにとのこと。20年前のアイルランド旅行の絵を描いた。これとは別に公演前に二回にわたってメールで丁寧な公演案内が届いた。

公演会場近くまで来ると手に案内上を持った女性(戸谷絵里だった)が路上に立っていた。私も手に案内封筒を持っていた。その女性に近寄るとふらふらと逃げていって、無言のまま踊るように歩いて行く。こちらの勘違いかあるいは劇場まで案内してくれるのかあやふやなまま彼女のついていくと、公演会場だった。中に入るとごろんと床に女優が寝ている。壁際にはぐるりと椅子が並んでいる。椅子の前にはいくつかテーブルも。飲み物付きということで、メニューからカルピス・ミルクを注文する。黒ズボンのウェイターは役者たちだった。

「池袋から日暮里まで」(脚本:黒澤世莉、演出:原田優理子)、「真ん中から少し浮く」(脚本:原田優理子、演出:黒澤世莉)の二本が上演される。二本とも途中で観客が書いた旅の思い出葉書から即興的な台詞のやり取りが行われる場面が含まれている。でもごく部分的なものだった。

前半の「池袋から日暮里まで」が私は好きだ。脚本がよくできている。ありふれたエピソードであるけれど提示の仕方に工夫があり、それがエピソードとしっくりかみ合っている。

山手線の車内、若い男女二人の会話劇。男はカメラマン見習い、女は菓子作りが趣味のようだ。二人は知り合いだがまだそんなに親しい付き合いをしていないことが会話から伺える。男が青臭く夢を語る。女はそういった男の態度に好感を抱いているようだ。別の男女一組が電車に乗り込んでくる。こちらは数年ぶりに偶然電車で出会った様子。かつてはかなり親しい付き合いがあったようだが、ここしばらくは連絡をとっていなかったようだ。ぎごちなく会話が始まる。

電車のなかの二組の男女の会話が交互に演じられる。しばらくするとこの二組のとも、男女の話題が妙に似通っていることに気がつく。女はどちらも菓子作りをしているようだ。後のほうの組では女はコンクールに思いがけず入賞し、パリに行くことになったということが語られる。

さらにしばらくするとこの二組の男女は、同じ人物の現在と数年前の姿であることがはっきりする。この数年の間に男はカメラマンの夢破れ、失意の日々を送っている。数年前に男に好感を抱いた女は運命を味方につけ、パティシエとなる夢の実現への階段を上っているところだ。
作りが技巧的過ぎる、話が感傷的過ぎるかもしれないけれど、好きな話だ。かなり気恥ずかしい感じもするけれど。
後半のお話は正直なところよくわからなかった。

上演のintimateな雰囲気には私は逆にとまどいを感じ、緊張してしまった。作り手と私との間の世代ギャップ、あるいは属する文化の違いによるものか。全般的に甘く、やさしく、洒落た雰囲気の公演だった。私にはちょっとオシャレな感じが強すぎたか。そのセンスのよい軽やかさゆえに物足りなさも感じた。