閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

人民の敵

ノルウェー国立劇場

  • 原作:ヘンリック・イプセン
  • 脚本:マーリ・モーエン、ルーナル・ホドネ
  • 演出:ルーナル・ホドネ
  • 美術:オーラフ・ミュルヴェット
  • 衣裳:アーネ・オスハイム
  • 照明:インゲボルグ・オーレルード
  • 作曲:アンドレアス・メーランド
  • 化粧:ルーツ・ハラスドッテル・ノルヴィーク
  • ドラマトゥルグ:マーリ・モーエン
  • 劇場:東池袋 あうるすぽっと
  • 評価:☆☆☆☆★
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本場ノルウェーの国立劇場によるイプセンということで大いに期待していた。おそらく世界で最も頻繁にイプセン劇が上演されている劇場に違いない。素晴らしかった。徹底したリアリズムで再現されたイプセンを予想していたのだがまったく違った。
美術を使用しない全くの素舞台でのイプセンだった。最後の場面のみ、天井からの照明が降りてきて登場人物を圧迫する。舞台美術の仕掛けはほとんどこれだけで、あとは黒一色の世界である。作品の象徴性をつきつめることで、極めて抽象的で純度の高い舞台を作り出していた。
音楽は時折静かに流れるグラスハーモニカの音色とと心臓の鼓動音だけというごく控え目なもの。幾何学的に計算されたかのような役者の動きと立ち位置はダンスのように見えることもあった。セリフは象徴的な身振りと表情とともに基本的に観客に向かって語りかけられる。「人民裁判」の場面の美しさ、緊張感は圧巻だった。戯曲のメッセージが役者の身体の中に凝縮され、それが豊かで力強い表現を生み出す。冒険的な簡素さ、「これぞ演出、これぞ演劇!」という醍醐味を味わうことが出来た。