閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

METライブビューイング:ベルリオーズ《トロイアの人々》

METライブビューイング

http://www.shochiku.co.jp/met/program/1213/#program_07

  • 指揮:ファビオ・ルイージ
  • 演出:フランチェスカ・ザンベッロ
  • 出演:デボラ・ヴォイト(カサンドラ)、スーザン・グラハム(ディドー)、ブライアン・イーメル(アエネアス)、ドゥウェイン・クロフト(コロエブス)、クワンチュル・ユン(ナルバル)
  • 上演時間:5時間17分(休憩2回、40分ほど)
  • 映画館:新宿ピカデリー
  • 評価:☆☆☆

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 ベルリオーズの大作オペラ《トロイアの人々》は、そのタイトルこそ知っていたけれどこれまで聞く機会はなかった。確かパリのオペラ・バスティーユの旗揚げ公演がこの作品だったように記憶している。19世紀フランス、ロマン派のグラントペラはそもそも上演の機会があまり多くないし、しかも《トロイアの人々》という上演時間5時間に及ぶ大作上演となると立ち会う機会は稀である。ウェルギリウスの『アエネイス』を原作としていることもあり、前から機会があれば見てみたいと思っていた作品だった。

ただしベルリオーズの作品は有名な《幻想交響曲》は、私はチョン・ミョンフン指揮、バスティーユ・オケの録音など2、3枚を聞き、コンサートでも聞いたことがあるのだが、その音楽の面白さはよくわからなかった。ロマン派のグラントペラもグノー《ファウスト》、サン=サーンスサムソンとデリラ》は何回か見たり、聞いたりしているが、スペクタクルとしての面白さはともかく音楽的な面白さを味わうことはできていないように思う。そもそもこのあたりの音楽は自分としては不得意な領域であり、《トロイアの人々》の五時間超えの長さは苦痛かもしれないという覚悟はしていた。しかし今回のMETライブビューイングの映像公演を観なければ、おそらく私がこの伝説的な作品を目にする機会は一生ないだろうということでチケットを予約した。チケット代は映像作品としてはかなり高額の5000円だが、作品の規模を考えると仕方ない。

 

果たして見る前に覚悟していたとおりの冗長な作品だった。中途半端に記号的で写実的な演出ゆえに、ロマン派的なダイナミックなうねり、過剰な表現の中で酔うことができない。音楽もやはりそのよさがわからず、私には退屈なだけ。作品は大きく二部に分かれる。第一部(1-2幕)はトロイア戦争の最後の場面。トロイア滅亡を予言するトロイア王女、カッサンドラとその恋人パントゥスが中心となる。後半(第3-4幕)はカルタゴの女王ディドーとこの地に漂着したトロイア王子、アエネアスの恋の描写の場。カルタゴの宮廷でイタリア行きの使命を忘れ愛欲に耽るエネアスとディドーのすがたが描き出される。享楽の祝祭がバレエとともに表現されるこの場こそ、19世紀フランスオペラならではの見せ場だろう。しかしその停滞ぶりは私にとっては拷問に近いものだった。最後、物語をどのような締めくくりにすのかと思えば、アエネアスに捨てられたディドーの自害、そしてカルタゴを捨ててイタリアに旅立つトロイア人たちをカルタゴ人たちが呪詛する大合唱という後味の悪い終わり方だったのは意表をつかれた。イタリアに赴き、ヨーロッパ人の父祖となるアエネアス賛歌で終わるのかと予想していたのだ。

終わったあと、疲労でげっそりとする。この作品をCDで聞き通すのは私にはよっぽどのことがない限り不可能だろう。