閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

渡辺源四郎商店 『イタコ探偵工藤よしこの事件簿』

  • 作・演出:畑澤聖悟 工藤千夏
  • 音響:藤平美保子
  • 照明:中島俊嗣
  • 舞台美術:山下昇平
  • 宣伝美術:工藤規雄+上野久美子
  • 宣伝美術写真:山下昇平
  • プロデューサー:佐藤誠
  • 制作:工藤由佳子、夏井澪菜、秋庭里美
  • 出演:工藤由佳子 三上晴佳 山上由美子 工藤良平 奥崎愛野 佐藤宏之 夏井澪菜 松野えりか 山田百次(劇団野の上) 北魚昭次郎(フリー) 畑澤聖悟
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆★

 青森の渡辺源四郎商店の公演、『イタコ探偵工藤よしこの事件簿』をこまばアゴラ劇場に娘と一緒に見に行った。渡辺源四郎商店の主宰で劇作家、高校教師でもある畑澤聖悟に関心を持ったのは、娘がこの4月に入学した中学の演劇部による昨年、彼の『もしイタコが高校野球のマネジャーだったら』の上演を見たことがきっかけだった。イタコが弱小高校野球部のコーチになって、転校生の投手にイタコ修業をさせて沢村栄治の霊を乗り移らせ、地区大会を勝ち抜いていくという荒唐無稽な話だった。人間の身体だけで舞台美術や音響効果を表現するという方法がとても面白かったし、荒唐無稽な物語は展開に推進力があった。 

 畑澤聖悟は生者の世界に死者を呼び込むイタコという存在がとても好きらしい。今回の『イタコ探偵工藤よしこの事件簿』は、『もしイタ』のようにイタコが乗り移って万能となった女性刑事がどんどん事件を解明していく話かと思えばそうではなかった。この作品のイタコはむしろ無能力である。劇中の台詞にあるようにイタコは「きをつけて」「ごめんなさい」「ありがとう」の三つの言葉しか実質的に語らない。表現内容をこの三つに集約させることで、依頼者の記憶を強烈に刺激するのだ。この作品のイタコが呼び寄せるのは常に死んだ母親であり、呼び寄せられた霊はこの三つの表現を繰り返す。 

 各エピソードの部分部分は、誇張された芝居による喜劇的場面なのだけれど、物語の素材は障害者の孤独と性、年金不正受給、少女監禁といったかなり重く、グロテスクなものだ。芝居の喜劇的な外面に反して、その芝居から与えられた印象は消化不良の後味の悪さだった。障害者の男性と彼の家を訪れる民生委員の現実が前面で、障害者の男性が見る「イタコ女刑事」が登場するサスペンスドラマが奥の舞台で再現され、奥の劇中劇虚構の世界と前面の殺伐としたリアルは、ずっと平行して展開し、最後に交錯する。 劇作術としては、エピソードを詰め込みすぎてわかりにくくなっていて、あまり成功していないように思った。