- 作・演出:松井 周
- 出演:古屋隆太、奥田洋平(以上サンプル・青年団)、野津あおい(サンプル)、羽場睦子、稲継美保、坂口辰平(ハイバイ)、坂倉奈津子、久保井研(唐組)
- 舞台監督:鈴木康郎、浦本佳亮、谷澤拓巳
- 舞台美術:杉山至(+鴉屋)
- 照明:木藤歩
- 音響:牛川紀政
- 衣裳:小松陽佳留(une chrysantheme)
- 字幕:門田美和
- 演出助手:山内 晶
- ドラマターグ:野村政之
- 劇場:にしすがも創造舎
- 評価:☆☆☆☆
サンプルの公演を見るのは3年ぶりくらいかもしれない。どんどんエスカレートしていくように見えた松井周の変態趣味の内向性に辟易して、観る気がしなくなっていたのだ。変態的幻想の作りはどんどん精巧になっていったが、それが性的な問題と密接にからむにも関わらず、性表現の危険な領域との対決を避けているように私には思えたし、変態的描写もステレオタイプで底知れぬ不気味さを感じないのも不満だった。演劇的変態としてはタニノクロウの表現のほうは私の感性にしっくりはまったが、松井周の表現からは私ははじき飛ばされているような気もして、要するに相性があまりよくなかったのだ。
今回はこの公演が対象となっているF/Tのパスを入手していたので、久々に見に行くことになった。しかしこの作品は思いのほか、楽しんで見ることができた。まず舞台空間の使い方の自由さが本当に素晴らしい。にしすがも創造舎の劇場は元小学校の体育館なのだが、殺風景な体育館空間が無造作に客席の前に提示されている。右手にはブルーシートがだらりと天井付近から垂れ下がっている。だらしない、散漫で乱雑な空間だ。この空間のどこで芝居が行われるのかと思うと、客席の右手から電気可動の軽トラックがゆっくり入ってきて、ぐるぐると客席の前で円を描く。トラックの荷台の部分が横に開いて、側面の板が三つの小さな舞台を作る。中世のファルスの荷馬車簡易舞台の現代版だ。荷台の中央部分がカーテンで仕切られた楽屋になっている。
登場人物たちは大きく二つに分かれる。年老いた母親、彼女は語りの時点ではもうすでに死んでいるらしい。そしてその老母を回想する初老の独身男性、この独身男性にまとわりつく謎のねずみ男。もう一組は権威的で威張っている夫と従順な妻、そして思春期の娘。この娘と父は血が繋がっていないらしい。思春期の娘を親はコントロールできない。娘は親とのコミュニケーションを拒否している。ここにエキセントリックな謎の若い男が入り込む。彼はこの夫妻を教育し、彼らのアイデンティティを崩壊させた上で、家出した娘を探し出す旅へと夫婦を誘う。オイディプス王の近親相姦のテーマを、グロテスクに滑稽に拡大し、いびつな家族関係を自由に嘲笑的に描き出していく変態娯楽大作だった。
松井周特有の露悪的表現は今作では若干抑え目。妄想を継ぎ足していったようなシュールな展開になぜか説得力がある。優れたファトラジー、舞台詩。移動舞台は中世のファルスを連想させるものだが、関係性の逆的のテーマもまた中世のファルスにも通じる。