- 作:ウージェーヌ・イヨネスコ
- 翻訳:安堂信也、木村光一
- 演出:蜂巣モモ
- 照明:井坂浩(青年団)
- 美術:高橋まり
- 音響:曽根貴了
- 制作:水谷円香(無隣館)
- 美術協力:濱崎賢二(青年団)
- フランス語協力:宮脇永吏
- 出演 :石川彰子 植浦菜保子 串尾一輝
- 劇場:小竹向原 アトリエ春風舎
- 上演時間:75分
- 評価:☆☆☆
こまばアゴラ演劇学校”無隣館”の若手自主企画。いたるところで今でも上演されているイヨネスコの『授業』を敢えて若い演出家が手をつけるのだから、普通にやってしまっては手垢にまみれたこの作品をやる意味は薄い。
春風舎の空間を横長に使っていた。コンクリートのブロックが4組ほど、横に並べられている。女性の演者がひとり、中央にじっと座っていた。冒頭部の崩し方は徹底していてちょっと意表をつかれた。赤いワンピースの肉感的な女性がよつんばになって、横長の舞台を往復する。彼女は「歯が痛い」といった『授業』の台詞の断片をつぶやいたり、犬の吠え声を不意に挙げたりしている。このまま解体されたテキストのコラージュのような場面が続くとなるとしんどいなと思って見ていると、途中からオリジナルの戯曲のやりとりが、かなりデフォルメされているとはいえ、展開する。教授役も生徒役も女優が演じる。家政婦役は男優が演じるが、この男優の出番はごく短い。教授役の俳優が膨大な台詞をほぼ完璧に制御していたことには感心した。時々犬になってしまう生徒役の女優のとらえどころのないあり方も魅力的だった。
演出上のさまざまなギミックが導入されていて、そのなかには面白いアイディアもあったのだけれど、全体的には俳優たちの熱演ぶりにもかかわらず退屈でつまらない舞台だった。オリジナルのテキストは、読む戯曲としても十分に面白い。詳細なト書きを忠実に再現しても面白い舞台になるはずだ。それを小賢しい細工で破壊して、わざわざつまらない、ありきたりの前衛風作品にしてしまっている感じがした。もっとも今、『授業』を普通にやってしまっても、かつての前衛に対するノスタルジックなパロディみたいになってしまい、作品初演当時の刺激を得ることはできない。こうした前衛の古典をあえて取り扱うには、何らかの新しい工夫、切り口が不可欠になる。
「つまらない」と言い切って捨てるのを躊躇させる何かを感じないでもなかったけれど。いずれにせよこういった類の「オリジナルの解体=自己表現」のような演出は私の好みからはずれる。解体してもいいのだけれど、おのれの自己表現を組み込む前に、まず天才の書いたテキストと格闘する覚悟を作品のなかで見たいと私は思う。