閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

劇団サム『K』

f:id:camin:20170819225049p:plain

原作:フランツ・カフカ『審判』『変身』『城』『父への手紙』

構成:羽場小百合・丸子修学館高校演劇部

演出:田代卓

会場:練馬区生涯学習センター

評価:☆☆☆☆

上演時間:75分

-----

劇団サムは、石神井東中学校演劇部のOG・OGたちがメンバーの劇団で、今回の公演が二回目になる。劇団主宰は同演劇部の顧問だった田代卓だ。田代は3年前に退職したが、その最後の勤務校が石神井東中学だった。田代は中学演劇の卓越した指導者であり、石神井東中学在職の6年間に同校演劇部を都大会の常連校にした。退職の前年には関東大会、退職の年には沖縄で行われた全国大会に石神井東中学演劇部を導いた。

『K』は2013年の高校演劇全国大会丸子修学館高校(長野県)が上演した作品で、同校はこの作品でで優秀賞に選ばれた。カフカの『父への手紙』を外枠に設定し、その内側でカフカの代表作である『審判』『変身』『城』が自由に再構成されている。『父への手紙』ではカフカのその父への葛藤が綴られている。この手紙は実際にはカフカの父は読むことがなかったと言う。カフカエディプス・コンプレックスが、『審判』『変身』『城』のなかに投影されているという解釈のもと、外枠と内枠のエピソードが入り組んだかたちで提示され、その虚構と現実の交錯のなかに作家カフカの姿を浮かび上がらせるという非常によくできた脚本だ。『審判』『変身』『城』のなかにカフカエディプス・コンプレックスを読み取るというはそれほど独創的な読みではないかもしれなが、高校演劇らしからぬ本格的な演劇作品の脚本である。

4作品の登場人物約40人を、16人の若い俳優が演じた。各物語の各シーケンスはかなり複雑に絡み合っているので、その演じ分けは大変だ。各人物のキャラクターを記号化しはっきりと示す他、舞台空間を垂直方向に二段に分け、さらに水平方向にもいくつかに分割する、背景のホリゾント幕の色をエピソード毎に変化させるなどの工夫で、展開が混乱しないような配慮がされていた。音楽も多用される。それでもやはり手強い芝居だった。

時折コミカルな芝居も組み入れられていたが、芝居のアンサンブルの完成度はいまひとつで、会話のリズムが若干重苦しい。また各俳優のエネルギー、芝居の強さも不揃いだった。

公演の完成度の点では難点はあったけれど(難しい芝居だった)、中学演劇部のOB・OGが年度を越えてこうして集まり、公演にまでたどり着いたというのは素晴らしいことだと思う。中学演劇部では田代に指導されるまま、おそらく何もわからない状態で演劇をやっていた子供たちが、卒業後またかつての顧問を中心にこうして集まって「劇団」を作って公演を行うなんて、どんな気持ちだろう。練馬区生涯学習センターは300席ほどの客席がある会場だった。今日は激しい雷雨だったのだが、客席は8割がた埋まっていた。

終演後、照明スタッフを含めた17名が全員一言ずつ挨拶をしたが、このカーテンコールに感動してしまった。今後も年に一度のペースで公演を続けていく予定だと言う。ずっと見守っていきたい。