SPACの公演を見にいくのは久々。今年の春のふじのくに⇄せかい演劇祭もチケットは予約していた演目はあったが、予定が立て込んで結局一本も見ることが出来なかった。静岡芸術劇場に来たのもこの1月末に見た『ハムレット』再演以来だ。
新型コロナウイルス感染下の状況で、どうもSPACの演劇は積極的に見にいきたい気分にならない。状況下で表現自体が萎縮しているような感じが強く、公演のエネルギーがあまり感じられないのだ。SPACは大きなスペクタクルばかり上演しているわけではないが、やはり野外での大人数キャストでの大きな芝居の賑わいがあってこそSPACという感じが私はする。
『みつばち共和国』はフランス人の女性演出家、セリーヌ・シェフェールの作品で、初演は2年前のアヴィニョン演劇祭だった。昨年秋に、SPACのキャストで上演されたが私はこの公演は見ていない。原作はメーテルリンクの『蜜蜂の生活』で、これは戯曲ではなく、そのタイトルが示すように蜜蜂の生態についてのエッセイだ。
シェフェール『みつばち共和国』の上演時間は約1時間。正直なところ、東京から往復して見にいく価値のある作品ではなかった。それなりに洗練されているが、凡庸なアイディアの教材演劇というか。蜜蜂の一年の生活を女王バチを中心に語るというもので、いくぶん文学的な香りがしないでもないナレーションを、俳優が演技で説明的な動作でなぞるというものだった。プロジェクション・マッピングやいかにも現代のフランスの舞台っぽい暗めの洗練された照明などはあったが、舞台表現として特に独創的なアイディアがあるわけではない。
もともと蜜蜂の生態というものに私はほとんど関心がないというのもあるが、そんな私でも北マケドニアの女性の自然養蜂家の生活を追ったドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷』には大きな感銘を受けたのだから、やり方次第ではこの題材でもこちらの心をぐっと引き寄せるような作品は可能なはずだ。
小学生向けの学習図鑑を、丁寧に舞台化したかのような舞台。丁寧には作られているかもしれないが、何の驚きも発見もない。もともと小学生ぐらいの子どもの教育用に作られた舞台なのかもしれない。実はこんな舞台だろうなと、広報の情報を見て思っていたのだが、まさにそういう舞台だった。
新型コロナウイルス下ということで、公共劇場であるSPACは活動にさまざまな制限を加えられていて苦しい状況なのだろうと思う。この1月に見た『病は気から』、『ハムレット』でも感じたことだが、SPACの公演からはSPACの苦しさが伝わってくるような気がして、応援したい気持ちはあるものの、それであまり積極的に見にいく気になれないのだろう。