http://www.atre.jp/13pygmalion/
- 作:ジョージ・バーナード・ショー
- 翻訳:小田島恒志
- 演出:宮田慶子
- 美術:松井るみ
- 照明:沢田祐二
- 音楽:かみむら周平
- 音響:高橋 巖
- 衣裳:半田悦子
- ヘアメイク:川端富生
- 振付:青木美保
- 演出助手:高野 玲
- 舞台監督 澁谷壽久
- 出演:石原さとみ、平 岳大、小堺一機
- 劇場:初台 新国立劇場中劇場
- 評価:☆☆☆★
新国立劇場の中劇場は約1000席あるが、この1000席を埋める公演企画は非常に難しい。今回は2週間にわたる長い公演期間だが、土曜ソワレの公演であるにも関わらず一階席の両脇のブロックは空席が目立った。 国立の劇場にもかかわらず入場料の設定が高いのだ。あまり安くすると民間劇場との格差が問題になるから安くできないのだろうか? 制作スタッフも国立であるがゆえに、チケットを売り切り、客席を満員にするという覚悟が乏しいということはないだろうか? がらがらの客席では芝居は盛り上がらない。
石原さとみをヒロインに迎えたこの公演は、新国立としては幅広い観客に向けた公演だったはずだ。演出も、『ピグマリオン』のミュージカル版である『マイ・フェア・レディ』をおそらく意識したレビュー風の群舞シーンも入れ、どちらかという喜劇調を強調した明るい雰囲気の演出になっていた。白を基調とした舞台美術も洒落れている。
人工方言でコックニー英語の雰囲気を出そうとした小田島恒志先生の新訳もよかったし(Hの音を発音しない。人工方言ながら下町言葉っぽい雰囲気が出ていた。あれを生きた言語らしく発話させる演出上の工夫も大きい)、主演の石原さとみはやはり無茶苦茶可愛らしい。ちゃんと芝居もできる。ヒギンス教授役の平岳大の役作りもとてもよくできていたと思う。ヒギンズの冷酷で自己中心的なところ、甘やかされたぼんぼんの秀才風の雰囲気が良く出ていた。小堺一機のイライザの父親役は、観客の笑いはとっていたものの、私には少々退屈だった。 宮田慶子の演出は堅実で、テキストをよく読み込んでいることが伝わってくる。最後のヒギンスとイライザが一対一で行うアゴーン、論争場面も細かく緩急と動きをつけて、緊張感を維持できていた。結末はもっと残酷、無慈悲であったほうが私の好みだけれど。
しかし全体としては物足りない舞台だった。 がら空きの一階客席を見て、国立劇場として、現在のあり方に大きな疑問を持つ。個々の作品のクオリティは低くない。しかし作品の選定にせよ、演出家にせよ、キャストにせよ、新国立は数少ない国立の劇場にもかかわらず、日本の現代演劇をリードするような存在感に乏しい。フランスの国立劇場のありかたと比べると、非常に物足りない。保守的な新劇的色彩が支配的で、舞台芸術のあり方に問題提起するような意識があまり感じられない。