閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

全校ワックス

都立飛鳥高等学校全日制演劇部 自主公演

  • 作:中村勉
  • 演出・音響制作:佐藤旭人
  • 舞台監督:林友菜
  • 照明・衣装:渡邉華耶乃
  • 音響操作・宣伝美術:秦泉寺真伊
  • 出演:坂口佳子、橋本梓、渡邉晴菜、清水優里佳、佐藤江莉
  • 会場:滝野川会館 5階小ホール
  • 上演時間:50分
  • 評価:☆☆☆☆
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五十音順によってグループ分けされた女子高生が5人が、学校内の割り当てられた場所をワックスがけする50分の話。

知り合いが出演するわけでもない高校演劇の公演に、寒い中、わざわざ見に行くなんて物好きもいいところだなあ、と自分でも思わないでもなかったのだが、わざわざ見に行く甲斐は十分にあった。

高校(そして中学)演劇でしばしば上演されるという『全校ワックス』を私が知ったのはこの3月にあった関東中学演劇コンクールだった。出場校のなかに『全校ワックス』を取り上げた学校があったのだ。私はこのときは『全校ワックス』の公演を見なかったのだが、風変わりな題名は頭に残っていた。また劇作家・演出家の高野竜さんがこの作品を賞賛していて、いつか機会があれば見てみたいと思っていた。

50音順にグループ分けされた女子高生5人が、校内の割り当てられた場所をワックス掛けする50分の物語。客席は舞台を挟む形で対面二箇所に設置され、演技はこの二箇所の客席のあいだの細長い空間で行われる。この細長い空間は学校内の廊下に見立てられている。

脚本がとてもよくできている。5人の女子高生それぞれの個性がしっかり描き分けられている。個性の違いによって作り出される各人の関係性の微妙さが、台詞のやりとりを通して浮かび上がってくる。その関係性のなかで浮游する不安定な思い、傷つくことへの怖れといった感情のゆらぎが、彼女たちの他愛のないやりとりを通して表現される。

最後の湿り気のある場面は、少々センチメンタルな表現に流れすぎたかもしれない。しかし飛鳥高校演劇部の『全校ワックス』は高校演劇ならではの魅力を十分に味わうことのできる作品になっていた。高校生が演じるからこそ説得力を持つ演劇的リアリティというものがある。自身と等身大の人物を演じるなかで、おそらく無意識的に、彼女たちは自分自身の思春期に決別を告げていている。彼女たちが演じるのは回想された思春期の時間であり、彼女たちがそのかけがえのなさを実感するのは、やはり回想を通して、そして大分後になってからかもしれない。