奥泉光(文春文庫,1997年)
評価:☆☆☆
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中編二編.表題作「石の来歴」.戦争末期のレイテ島の洞窟とその何十年後かの秩父の洞窟の二つの時空が物語の最後で重なり合う幻想譚.自然主義的レアリスムの文体と幻想的構造の結びつきが新鮮.次男が学生紛争の中で極左化していく過程の描写は性急すぎる感じがして違和感を覚えたが,最後の場面で提示された救いのイメージが美しい.二編目「三つ目の鯰」は,父の郷里での葬儀を契機に,田舎に住む親族の葛藤を描いたもの.田舎の血縁的結びつきの牧歌的側面も描かれている.ここで描かれる父の郷里は山形県であるが,その風土の描写,親戚関係,田舎に残された家と墓の問題,大学に入るまでその田舎で学校の長期休暇を過ごした主人公の経験など,僕の但馬にある父の郷里に関わる思いと重なる部分が多く,共感を持って読むことができた.今は時折父が帰る以外は無人の但馬の家と墓の将来に,いずれ僕と弟は向き合わなくてはならないだろう.