閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

豊岡演劇祭2020 9/11(金)

9/11-13の金土日の二泊三日で、豊岡演劇祭に行ってきた。
コロナ禍のため、海外からの招聘が不可能になり、、国内団体のみの演劇祭となった。予定していたより大幅な規模縮小になってしまったわけだが、それでもギリギリのところで開催できてよかった。

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いやよかったのかどうかはまだわからない。豊岡は兵庫県北部の但馬地方は人口過疎の田舎だ。演劇でこの過疎の地域を活性化させようという平田オリザへの期待は大変大きなものなのだけど、しかしそのために新型コロナウイルスが持ち込まれ、この地域  が 広まったりすると、もとより田舎の閉鎖的な土地なのだから、演劇への風当たりは一気に強くなり、演劇で町おこしどころではなくなるだろう。
 
7月に新宿の小劇場でクラスタが発生したこともあり、東京の劇場でも感染 »対策は緊張感をもって行われているが、豊岡演劇祭スタッフの緊張感、プレッシャーはそれ以上に違いない。もし感染クラスタが演劇祭で発生してしまったら、地域の信頼感を回復させるのは並大抵のことではないはずだ。
 
演劇という文化がほぼ存在しなかった但馬の地に演劇を根付かせようとする平田のチャレンジは驚嘆ものだが、このコロナ禍の不安の中で演劇祭を実施する決断をしたという賭けもすごい。東京では7月以降、連日百人以上の新型コロナ陽性が出ているので、場合によっては私は豊岡に行くことはできないかなと思っていたのだけど、8月20日なってようやく兵庫県外の居住者に対するチケット販売が始まった。
 
東京から豊岡に行くのはけっこう大変だ。私の父の郷里が但馬の山村だったので、私にはなじみのある地域なのだけど、鉄道でこのあたりに行くのは本当に久々だ。父の郷里の最寄り駅は豊岡の二つ前の八鹿駅(そこからさらにバスで50分の山奥)で、私は豊岡駅で降りたことはなかった。城崎温泉には数年前に一泊している。
東京からだと新幹線で京都まで行って、そこから山陰線に乗り換えてというルートが一番合理的みたいなのだが、京都から特急で福知山まで行って、そこでローカル線に乗り換えなくてはならない。京都から乗る特急の名前は「きのさき」なのだけど、城崎温泉まで行かず、その80分ぐらい手前にある福知山駅が終点なのだ。一日に一本だけ京都から豊岡まで乗り換えずに行くことができる特急が走っているらしいのだけど。東京-京都間が2時間15分ぐらいだが、京都から豊岡までが待ち時間を入れると3時間以上かかる。

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私の家の最寄り駅である有楽町線副都心線地下鉄赤塚からは7時間近くかかった。朝10時半ごろに家を出て、豊岡についたのが午後5時半。移動しているだけなのだけど、やっぱり疲れる。
 
豊岡駅は私にとってははじめての駅だ。カバン製造業が盛んで、但馬地方の中心都市なのだけど、まあ田舎のがらんとした町だ。駅そばにはショッピングセンターがあり、ホテルが数軒ある。ホテルは駅のすぐそばにあるOホテル豊岡で、一泊朝食付きで5000円ぐらい。城崎温泉の宿と風情があってよさそうなんだけど、一人で泊まるような感じの宿はほとんどないだろうし、値段も高い。
 
一人で地方旅行だと夕飯もわびしくなる。お酒が飲めれば居酒屋みたいなところに入って、土地のおいしそうなものを食べてという楽しみ方もあると思うのだが。こういうときは下戸って不便だなと思う。ホテルにあった「お食事処リスト」も居酒屋や割烹が多い。一件だけ「食堂」というのがあった。
 
ホテルにチェックインして荷物を部屋においたあと、ホテルのリストにあった駅近くの食堂に入る。昭和的な定食屋さんだ。腰のまがったおじいさんとおばあさんが給仕をしていた。お客さんはおっさんが一人とおじいさんが一人。いずれも一人飯で、テレビをみながら黙々と食べている。メニューは定番的定食もの、麺類、洋食、丼など多数。焼き肉定食を食べた。わびしい夕食だった。まあ、飯を食べに来たわけじゃなくて、芝居を見にきたのだから、これでいいのだ。
 
今日見る演目は、ホテルから歩いて10分ほどの場所で21時からやっている大道芸、知念大地の『続・ひしと』というフリンジ演目だ。
 
会場の豊岡稽古堂までは歩いて10分ほどだが、その道筋は暗くて人通りがなかった。よくこんなところで演劇祭をやろうと思うよなあと思いながら歩く。豊岡稽古堂は豊岡市役所に隣接した建物のようだ。開演15分ほどまえに到着したが、スタッフはいたけれど、観客は私以外に2、3名しかいない。コロナのせいで、無料の大道芸にもかかわらず事前予約が必要だったのだが、その告知がしっかりされていなかったためか、全然定員が埋まっていないという訴えを数日前にパフォーマーがしていた。
会場までの道なりがあまりにも暗くて人通りがなかったので、観客は果たしてどれくらい集まるのだろうか、と思っていたのだけど、最終的には30名くらいの観客が集まった。

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大道芸を見るのは久しぶりだ。知念大地というパフォーマーは私は今回が初めて見る。細身の中性的なパフォーマーで、手品、ジャグリング、パントマイム、ダンスを見せる。落語っぽい語り芸もいれていた。バラエティに富んだ芸を緩やかな構成で次々と見せるけれど、本領はダンスのようだ。
身体の柔らかさと運動能力の高さを生かしたパフォーマンスだった。本人が一番見せたいのはパントマイム的な動きを取り入れたダンスなのだろうけれど、私が一番印象的だったのは小さな折りたたみ式のパイプ椅子をくぐり抜ける軟体芸だ。ルーズで即興的な雰囲気のなかでやるのを持ち味としているのだろう。30分の演目のプログラムはきっちり組み立てられた感じはしない。
 
ちょっと前衛的でひとりよがりな感じがあった最後のナンバーは、夜の会館ホールという空間の雰囲気とマッチしていたけれど、昼間の陽光のなかでは人をひきつけるパフォーマンスにならなかったかもしれない。世捨て人というか、やさぐれた感じのスタイルには引きつけられるところはあった。