閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

内濠十二景あるいは《二重の影》

眠い.三月に入って以来のこの睡魔,いくらなんでもちょっと異様な感じがしてきた.睡眠時間は十分とっているのである.花粉症と関係あるのかもしれない.
クローデル詩篇と戯曲『繻子の靴』にある幻想的な場面からの自由な引用で創作能のかたちで構成された舞台.このところの体調からかなりの確率で眠りに落ちると思っていたが,睡魔に引き込まれそうな時間もあったものの,一時間半の公演,思った以上に集中して見ることができた.
登場人物は三名.『繻子の靴』の一場面を扱った後半のほうに特に引き込まれる.きわめて抽象的なレベルで象徴化されている能の所作や朗誦は,『繻子の靴』でロドリーグとプルエーズが地球の端と端で心を通い合わせるという幻想的場面の表現にうまく適合しているように思えた.もっとも公演台本が配布され,かなり詳しい解説を読みながらの観劇であったからこそ,この場面の背景にある大きな物語世界を思い描くことができたのだが..僕がこれまで見た渡邊守章演出作品の中では一番成功しているように思える.
能の舞台を見るのは初めての経験.最初はそのテンポの遅さに戸惑ったが,地謡による群読の効果,究極にまで洗練され様式化された役者の所作と朗誦,仮面の造形の魅力,および衣装の美しさには引き込まれる.ここまで洗練された様式美の演劇はヨーロッパの演劇史の中には存在しない.やはりヨーロッパ演劇を相対化する視線を持つためにも,非ヨーロッパ世界の舞台芸術にも目を配る必要があることを改めて認識する.
古典作品も見て,今日見た創作能との違いを確認したい.