閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

屋根裏

  • 劇団:燐光群
  • 作・演出:坂手洋二
  • 照明:竹林功
  • 美術:じょん万次郎
  • 衣装:大野典子
  • 出演:中山マリ,川中健次郎,猪熊恒和,大西孝洋,下総源太郎
  • 劇場:梅が丘BOX
  • 評価:☆☆☆☆
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最近いくつかの賞を受賞し,言及されることの多い演出家,坂手洋二の舞台をはじめて見る.劇場の梅が丘BOXもはじめて行ったのだが,マンションの地下倉庫のような「箱」という名称にふさわしい劇場だった.ちらしによると広さは15坪だとのこと.
客は100名ぐらいはいただろうか.開演10分前に到着したが椅子席はすでに満員で,舞台直前の桟敷に詰め込まれる.こうしたスタイルの観劇は久々である.開演前,観客の期待感が伝わってくるような感じがしてわくわくする.
舞台も狭い.横幅5メートル,奥行きはせいぜい2メートル.中央部に一畳ほどの広さで高さが1メートルほどの「屋根裏BOX」が設置されていて,劇の大半はこの屋根裏ボックスの中で進行する(劇で使われたこの「屋根裏BOX」は40万円で実際に販売されているとのこと!).
この狭苦しい「屋根裏」は実際の屋根裏ではなく,「屋根裏BOX」という名で売り出された引きこもり用(?)の架空商品である.
この狭苦しい空間で,5分ほどの長さのエピソードが次々と演じられていく.各エピソードは,この密閉空間である「屋根裏」から連想されうる多様なイメージ(ひきこもり,監禁,防空壕,カプセルホテル,不登校など)を発展させたもので,その内容は最初は雑然と併置されているように思えるが,次第にゆるやかに連係していき,「屋根裏BOX」を象徴的な核とする劇世界が観客の中に構築されていく.
最初は軽いコントの連続のように思えた「屋根裏BOX」をめぐるさまざまなエピソードは次第に重量を増してくる.これらのエピソードのシークエンスはある種の変奏曲のように機能し,劇の進行芝居のメッセージは受けてである観客の心の中に敢えて託されたような結末.
幼いときの押入れなどに隠れるときの興奮から,密室に異性といるときのエロチックな感覚,絶望的な自閉,そして社会の閉塞状況の暗示など,「屋根裏BOX」という仕掛けを通じてきわめて多様な主題を語りつつも,この仕掛けがその多様さを見事に象徴・統合している.フェリーニの映画を連想させるつくり.
この演出家と劇団の作品は今後僕も注目していきたい.7月に新作,8月に昨年方々で高い評価を得た『だるまさんがころんだ』の再演があるという.楽しみ.