閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

終電車

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=10569

  • 評価:☆☆☆☆
                                                                            • -

トリュフォーは食わず嫌いというか大学学部の仏文に入った頃に観た『大人はわかってくれない』などの初期作品を見たものの,どうも好きになれずそのまま遠ざかった作家.あまりにも「おフランス」臭く感じ,拒否感を持ったのだ.「おフランス」的なものに対しては常にアンビバレンツな感情があって一概に嫌いだとは言い難いのだが,トリュフォーについてはその作品もそしてトリュフォー作品を好きだと言う人間についても,あまりに典型的に「おフランス」の香りが漂っているような雰囲気があって受け入れがたかった.

『終電車』はトリュフォー晩年の作である.60年代の監督だと思っていたらこの作品の制作は1980年.作品の舞台はドイツ占領下のパリの場末の劇場.ユダヤ人の夫を匿う看板女優兼劇場支配人,劇場地下に潜むユダヤ人の演出家,そして新しく劇団に入った才能ある男優の三角関係を軸に,占領下のパリの空気を描く.
くすんだ映像といい,舞台設定といい,揺れ動く人間関係の中の繊細な心理描写といい,本当にフランス臭い作品.主演級三人の演技はレアリスム演技の最高峰ではないだろうかと思えるほど渋い.
スノッブな雰囲気漂う作品であるがマリヴォー的な恋愛心理のゆれの表現やスリリングな展開などに引き込まれてしまった.
それにしてもドパルデュー,確かにうまい俳優ではあるが,このごつい体と顔つきの男がなぜフランス恋愛映画ではヒーローになりうるのか,それがよくわからない.不思議不思議.