閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

五月大歌舞伎中村勘三郎襲名披露 夜の部

http://www.kabuki-za.co.jp/info/kougyou/0505/5kg_1.html
『義経千本桜 川連法眼館の場』,『鷺娘』,『野田版 研辰の討たれ』の三本.
歌舞伎座の中に入ったのはこれが初めて.入場前に道路を挟んで向かいにある弁当屋で弁当を買う.入り口は当日券を求める人でいっぱいで活気にあふれている.こちらもうきうきとした気分になる.三階席右手二列目の席.座席間隔はかなり窮屈だった.花道は少しだけ見える.横に長い舞台の広さが目をひく.
イヤホンガイドと筋書き頼りに一本目,『義経千本桜 川連法眼館の場』(評価:☆☆☆★)を観る.
義経の妻,静御前に付き添っていた寵臣が実は狐が化けたものだったことが判明する話.静御前の鼓の皮がその狐の両親の皮であるゆえにそれを慕って,静御前に付き従っていたということが,狐の告白でわかる.化け狐の両親を思う心に打たれた義経はその鼓を狐に与えると狐は狂喜乱舞して,そのお礼に義経の刺客を退治したところで幕.唖然とするほど荒唐無稽なお話.幕切れもコミカルな悪党退治のダンスというどたばたなのもすごい.歌舞伎らしい役者の見せ場で観客を喜ばせるお芝居.強引な展開とコミカルな役者の見得が面白い.
二本目は坂東玉三郎による舞踊『鷺娘』.見慣れない舞踊でテンポも遅そうだったので眠たくなるかなと思えば,異なる性格の舞踊の組み合わせや衣装の早変わり,照明や舞台美術の幻想性,そして音楽の面白さに魅了され退屈することはなかった.象徴的な美しさに満ちた作品(評価:☆☆☆☆)

  • 『野田版 研辰の討たれ』(評価:☆☆☆☆)

野田歌舞伎の第一弾.オープニングの仕掛けが見事だった.シルエットで緊迫した赤穂浪士討ち入りの場面が,舞台を覆う長大な白い幕に幻想的に投影される.白い幕があがると,そこは緊張感のない,田舎藩の道場の日常的風景.緊張と弛緩,非日常と日常の間の急転換.そのほか回り舞台をうまく使った探索のシーンが特に印象的だったが,歌舞伎座の長大な舞台配置を計算した洗練された舞台設計には感心する.お話の構造は,二月にシネマ歌舞伎で観た『鼠小僧』よりシンプルで,少々物足りなさが残る.お話がわかりやすすぎるのである.最後の最後で研辰が切られるという結末は,観る者をはっとさせる効果はあるけれど,後味はよくない.切ったところで終わればまだよいのだが,その後の兄弟の道徳的香りのある自己弁明はいかにもよけいであるように思った.上空からひとひらの紅葉が落ちてくる最後の場面は美しい.

3階A席6500円だったが,値段分は十二分に堪能した充実した観劇体験だった.また行きたい.